あなたが「サステイナブル工学」を学ぶと何が変わるのか?(江頭教授)
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さあさあ寄ってらっしゃい見てらっしゃい。ここに取り出したるは東京工科大学の工学部。この工学部、工学部といってもそんじょそこらの工学部とはわけが違う。なんたって「サステイナブル工学」をやる工学部だ、てーんだからさあお立ち会い。
って、このテンションで続けるのもしんどいのでいつものスタイルに戻しましょう。
「サステイナブル工学」は本学工学部が設立された際、工学部での教育の柱の一つとされたコンセプトです。従って、このブログでも「サステイナブル工学」については何度も取り上げていたのですが、よく考えると「高校生の皆さんの視点に立って『サステイナブル工学』を学ぶと何が変わるのか、どんなメリットがあるのか」を直接説明したことはなかったなあ、などと、ふと思ってしまったのです。
サステイナブル応用化学で扱う物質は分子から違うよ。なんたってサステイナブル炭素がサステイナブル骨格をつくってそこにサステイナブル水素が結合…
いや、そんなバカな。人がどんな教育を受けたとしても扱う物質に違いはありません。これは化学の、いや、科学の常識です。では、他の工学部では教えてくれない化学反応を教えてくれるのでしょうか。
今は昔、サステイナブル工学を志した学者達が八王子奥地のサステイナブル山の霊峰に閉じこもってはや100年。下界の喧噪を離れてひたすら研究に邁進して独自に作り上げたのが、このサステイナブル工学。専門家曰く約50年は進んだその威力をばご覧じろ…
とまあ、これもあり得ないですよね。
さて、ここからは真面目に「『サステイナブル工学』を学ぶと何が変わるのか、どんなメリットがあるのか」について回答しましょう。
サステイナブル社会を実現するのがサステイナブル工学である。これを裏側から言い直すと、従来の工学では人間社会はサステイナブルでは無くなってしまう、となります。いえ、サステイナブルでは無くなる、などと持って回った言い方は止めましょう。従来の工学では人間社会は壊れてしまう、という主張をしているのです。
そもそも工学とは何でしょうか。いろいろな定義があるかと思いますが、科学を利用して天然資源から人間に役立つものを作り出すための学問だ、と言っても大きな異論は無いのでは。(ものだけじゃなくてサービスもあるぞ、とか若干の異論は認めますが。)でもこれも裏側から言い直すと、人間の欲望を満たすために自然に干渉するための学問が工学だ、とも言えるのです。
もし工学が、人間の飽くなき欲望(その最たるものが「産めよ増やせよ地に満ちよ」なのですが…)を単純に全肯定し、その実現に邁進するだけの学問だとしたら、工学は地球環境を、そしてそれに依存する人間社会を食い尽くしてしまうための学問でしかない。
少し筆が滑ったかも知れません。でも、単なる工学とサステイナブル工学の違いはここにあるのです。サステイナブル工学も「天然資源から人間に役立つものを作り出すための学問」ではある。ポイントは「人間に役立つ」をどのように理解するか、です。「人間に役立つ」ものと「人間が欲する」ものとは実は異なっている。これは個人でも、そしておそらく人間全体でもそうなのです。
従来の工学にはそれぞれの分野で役立つものをつくる、人間の欲するものをつくるためのノウハウが満ちています。ではその「もの」は単に人間が欲しているだけではなくて、人間に役立つものなでしょうか。この質問に答えるためには、従来の工学にはない価値判断の軸が必要となります。従来の工学にそのような価値の軸を加えたもの、それがサステイナブル工学なのです。
2021年の現在の段階では「人間に役立つ」と「人間が欲する」の対立の最前線は環境負荷であり、もっとも喫緊の課題は二酸化炭素をはじめとする温室効果ガスの排出でしょう。したがって今、サステイナブル工学に求められる価値の軸はそれを定量評価する技法であるLCAだ。本学の「サステイナブル工学」はその様な考えに基づいて展開されています。
本学に入学した学生諸君はサステイナブル工学の授業のなかでLCAを利用した製品の環境負荷の評価の方法について学びます。そして環境負荷を削減する手法についての提案を学科を越えたグループワークを通じて経験します。この学部3年生までのカリキュラムによって、「サステイナブル工学」学んだ学生諸君に、化学の分野の専門的な知識に加えて環境負荷を評価する能力を身につけてもらいます。そして、卒論・修論の研究の中で、あるいはその後のエンジニアとしての活動の中でも、設計や開発など工学上の課題の解決に際して環境負荷に配慮した選択ができる様になってもらう。これが我々の目標であり、同時に学生諸君のメリットともなるです。
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