pHメーターとガラス電極についての補足(江頭教授)
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以前の記事でpHメーターについて紹介したのですが、その中でガラス膜について
水素イオンだけが透過することができる「半透膜」のような機能をもっている
と説明しました。今回はこの点について少し補足説明をさせてもらいましょう。
実はガラスの中を動くのは水素イオンではありません。そもそもガラスというのはケイ酸のナトリウム塩です。まずケイ酸は、いわゆる原子の「手」が4本のケイ素に4個のOH基がくっついているものだと思ってください。OH基から水素イオンが抜けてナトリウムイオンと置換する、あるいは二つのOH基が脱水縮合してケイ素とケイ素の間を酸素がジョイントするような構造をつくる。この二つの過程が混ざり合ってナトリウムイオンを含んだ酸素とケイ素からなる大きなネットワークのような構造になったもの。それがいわゆるガラスなのです。
ナトリウムが多いケイ酸ナトリウムは「水ガラス」と呼ばれる粘稠な液体です。ナトリウムが少なくケイ素ー酸素ーケイ素のネットワークが発達したものはガラスに。そしてナトリウムを全く含まず結晶となったものが石英です。ナトリウムの代わりにカリウムを入れたカリガラスや鉛を入れた鉛ガラスなども知られていますが、一般的なのはやはりナトリウムガラスです。
ガラスの中にはそもそもたくさんのナトリウムイオンが入っていますから、そのたくさんのナトリウムイオンが一方向に少しずつ動けば「膜の片面から反対の面にナトリウムイオンが通り抜けた」のと同じように見えるでしょう。
一方、膜の中に存在していなかった(あるいはOH基の形で酸素に結びつけられている)水素イオンの場合、本当に膜の端から端まで移動しなくてはならない。これが大変なことは容易に想像できます。
えっ、じゃあガラス膜は水素イオンは通らなくてNaイオンが通るのでは。ということはpHメーターが計っているのはpNaなのでは。
この疑問の前半はまさにその通り。でも、Naイオンはガラスの中を移動はできますが、ガラスの外に出て行くことはできません。Naイオンが動くとガラスの両面に、プラスとマイナスの表面電荷が生じることになるのです。(要するにガラスは誘電体だということです。)
まず水素イオンがどのように電位差を生じさせるか。実は水に浸されたガラス膜の両面にはシリカゲルの薄い層ができています。(この説明は本学応用化学科で使用している教科書「アトキンス物理化学」の説明に拠ります。)このシリカゲルに水中の水素イオンが吸着するのですが、その吸着する量は水素イオンの活量、つまりpHに対応している。ガラス膜の両面でpHが違うと両者の間に吸着イオン量の差が生じる。そこで生じる膜の両面の電荷の差を打ち消す様にガラス膜中のナトリウムイオンが移動する。それによってガラス膜の両面の間には水素イオンの吸着量の差に応じた電位差が生じるのです。
疑問の後ろ半分「pHメーターが計っているのはpNaなのでは」という疑問はどうでしょう。一つのポイントは計っている液体にナトリウムイオンが存在するとは限らないが、水素イオンは必ず存在する、ということ。pHが小さいとき(そして水中の陽イオンがほとんど水素イオンのとき)にはシリカゲルの薄膜層に吸着する電荷はほとんど水素イオンのみで、他のイオンの影響は少ない。でも、pHが大きくなると他のイオンも部分的に吸着するようになります。これはpHの測定に際しての「アルカリ誤差」と呼ばれる現象です。アルカリ誤差の原因がナトリウムイオンなら部分的に「pHメーターが計っているのはpNa」という状態になっている、つまり疑問の後ろ半分は部分的に正しい、とも言えるでしょう。
とは言え、ガラス表面のシリカゲルというのは水素イオンがよく吸着する性質をもっていてpHメーターの素材としては優秀です。なお、電極の膜の材料に工夫をして水素イオン以外の特定のイオンが吸着しやすいに様に改良したものはイオン電極とよばれ、水素イオン以外のイオンの濃度を測定するために利用されています。
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