アボガドロ定数とファラデー定数と電気素量を全部覚えておく必要はない、という話(江頭教授)
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「クイズです。アボガドロ定数は?」
「6.02×1023 です!」
「では、ファラデー定数は?」
「96500 C だね。」
「じゃあ電気素量は?」
「えっ、えーっといくつだっけ?」
答えは1.60×10-19 C です。
ファラデー定数が電子1molの電荷だ、ということを理解していれば電気素量が 96500÷6.02×1023 で求められることは容易に理解できますよね。
もっともクイズの答えがこんな感じになるのは私が化学の分野の人間だからかも知れません。電気を専門にするひとにとっては「電気素量」が常識「ファラデー定数」が基礎知識で
ファラデー定数が電子1molの電荷だ、ということを理解していればアボガドロ定数が 96500÷1.60×10-19 で求められることは容易に理解できますよね。
となっていたかも知れません。
アボガドロ定数は「1 mol の物質に含まれる(分子、原子、イオン)の量」がその値の由来。つまり人間が扱いやすい化学物質の量を基準として決めた、いわば科学者の都合で決めた定数と言えるでしょう。
その一方で電気素量は自然界固有の定数です。とはいえその定数をC(クーロン)で表すからこそ1.60×10-19 という数値になる。そしてCはA(アンペア)とs(秒)から、Aは電流間に働く力から定義されている。そう考えると電気素量も人間が扱いやすい電磁気学的な現象をもとに決まっている、半ば恣意的な数値なのです。
こう考えていくとファラデー定数は「扱いやすい化学物質量」と「扱いやすい電磁気現象」から恣意的に(人間ファーストで?)きまった体系の間をつなぐ定数だということができるでしょう。全ての学問に通暁した賢者にとっては
ファラデー定数が電子1molの電荷だ、ということを理解していればファラデー定数が 6.02×1023 ×1.60×10-19 で求められることは容易に理解できますよね。
となるのでしょうね。
アボガドロ定数や電気素量が恣意的に決められたというのなら、実はファラデー定数は「1」にできるのでは?その方が自然を反映した科学の体系となるのでは…。
いや、これは危険な考えです。なにしろファラデー定数を1にするにはアボガドロ定数か電気素量か、どちらかを再定義する必要があります。それに伴って全ての測定値を換算して記録し直すことになるのです。化学と電気、どちらが変更するのかで大戦争になってしまうでしょう。
いっそのことアボガドロ定数も電気素量も両方とも1になる様に単位系を書き換えたらどうだろう。そうすればファラデー定数も1になるし。
アボガドロ定数や電気素量を最初に決める、というこのアイデア、実はすでに実施されています。でもご安心を。アボガドロ定数は1でななくて6.02214086×1023 と決めている。電気素量も1Cではなくて1.60217662×10-19 Cと決められています。このように決めることで化学でも電気でもデータを書き換える必要はほとんどありませんから、大きな問題にはなりません。
と言うか、そもそも1にこだわる方が恣意的、という見方もできますよね。
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