« デマを拡散しないように- 29 新型コロナは「ただの風邪」か? ウイルスの細胞選択的な感染(片桐教授) | トップページ | デマを拡散しないように-30 「新型コロナはない」という主張:オストリッチ症候群(片桐教授) »

「2020年の自然エネルギー電力の割合は20%を越えた」のですが(江頭教授)

| 投稿者: tut_staff

 私の担当する大学院の授業では日本のエネルギー需給の状況について説明する回があるのですが、その際の学生さんのレポートに環境エネルギー政策研究所(ISEP : Institute for Sustainable Energy Policies)のレポートが引用されていました[文献1]。ポイントは「2020年の自然エネルギー電力の割合は20%を越えた」という点。今回はこのデータについて少し考えてみたいと思います。

 まず、私はこのデータに別に疑問があるわけではありません。それどころか、この様な形でデータをとりまとめて公表する活動を高く評価したいと思っています。エネルギー問題についての議論に必要なデータは広く公表されるようになっていますが、その内容を理解するのは難しい(というか煩雑)なので、このように判りやすい形でデータを示してくれることは本当にありがたい。現に、私の授業を受けている学生さんもこの活動の恩恵に預かったわけですし。

 さて、ここでの結論「自然エネルギーが20%越え」はとても印象的です。ここまで来ているのか。将来に明るい希望が見えますね。

 とはいえ、私は先の記事「再生可能エネルギーのインパクトはどのくらい?(エネルギー白書2020より)」では「再生可能エネルギーの占める割合はまだ4.0%に過ぎません」と述べています。

 あれ、こっちだと「まだまだ」という感じなのですが…。

 

Photo_20211017131301

 簡単な話です。じつはこの二つ、全く別のものについてのデータなのです。まず「20%を越えた」のは「日本の」自然エネルギー電力の割合のこと。一方で「4.0%に過ぎ」ないのは「世界の」エネルギー消費のこと。対象が違います。

 そうか。日本は世界より進んでいるのかな。いえいえ、ちょっと待ってください。「20%を越えた」自然エネルギーには太陽光、風力発電、バイオマス発電に加えて大規模、小規模の水力発電が含まれているのです。一方で「4.0%に過ぎ」ない「世界の」エネルギー消費では水力発電は別扱いとなっていて、これを含めると4%は10.8%となります。

 いや、それにしても日本は世界の2倍くらいだ。うーん、じつはまだ二つのデータには違いがあります。「自然エネルギー」が「20%を越えた」のは「発電電力量」に対してなのです。一方で、水力発電とその他の再生可能エネルギーを加えて10.8%となるのは「エネルギー消費量」と比べての場合。エネルギー消費量には電力の他にもガソリンなど液体燃料やガスなどが含まれていますが、大抵の再生可能エネルギーは電力ですから、こちらの方が数字が小さくなるでしょう。

 さて、ここまでくると「簡単には比較できない」どころか「どうして比較できると思ったんだ」という案件ですね。それはその通りなのですが、数行のヘッドラインにこのような数字が現れた時、私達はどこまで正確に内容を読み取れるのでしょうか。

 

[文献1]特定非営利活動法人 環境エネルギー政策研究所、「2020 年の自然エネルギー電力の割合(暦年速報)」、閲覧日 2021 年 10 月 17 日.
https://www.isep.or.jp/archives/library/13188

 

江頭 靖幸

 

« デマを拡散しないように- 29 新型コロナは「ただの風邪」か? ウイルスの細胞選択的な感染(片桐教授) | トップページ | デマを拡散しないように-30 「新型コロナはない」という主張:オストリッチ症候群(片桐教授) »

解説」カテゴリの記事