デマを拡散しないように- 29 新型コロナは「ただの風邪」か? ウイルスの細胞選択的な感染(片桐教授)
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2021年におこなわれた千葉県知事選挙の候補者のうちのひとりの「新型コロナはただの風邪」という主張は知事選の政見放送で繰り返し耳にしました。確かに新型コロナ(COVID-19)は、パンデミックの初期には肺炎を起こす風邪の一種と認識されていました。しかし、この認識は正しいのでしょうか?。「新型コロナはただの風邪」というのは言い過ぎですが、新型コロナは「風邪」の一種とみなせるのでしょうか?。
ここからの解説は理解し易くするために、厳密さに欠けた「噓も方便」を使います。ご容赦ください。
風邪はくしゃみ、鼻水、のどの炎症、咳、たん、発熱などの症状を引き起こす病気です。これらの症状を引き起こす上気道炎症の原因はウイルスの感染です。その他には細菌の感染もあります。上気道の粘膜細胞に感染したウイルスをその細胞ごと駆逐するために細胞性免疫(白血球による免疫)は活性酸素で感染してしまった細胞を攻撃します。このとき、免疫細胞の働きを活性化するために、体温を上昇させます。周囲の健康な細胞はその活性酸素の流れ弾に被弾し、傷つき炎症を起こします。熱や炎症などは、ウイルスそのものの作用によるものではなく、ウイルスを排除し撲滅するための細胞性免疫の働きです。問題なのは、その細胞性免疫の作用はその人の体を必要以上に破壊してしまうことです。
インフルエンザを含めて、風邪を引き起こすウイルスは上気道粘膜細胞に特異的に感染し、そこで炎症をひき起こします。インフルエンザの特異的な感染部位選択性は、上気道粘膜細胞表面のインフルエンザウイルスの取り付けるレセプター(SAα2,6Gal)の存在によります。一方、強毒性(致死率の高い)H5N1鳥インフルエンザは上気道だけではなく、肺にも取りつけます。これは肺にも鳥インフルエンザの取り付けるレセプター(SAα2,3Gal)の存在することによります [新矢恭子,河岡義裕, ウイルス 2006, 56, 85-90.]。このように細胞の持つレセプターの違いにより、ウイルスの感染する臓器や部位は異なります。
旧来型のコロナウイルス4種も主に上気道粘膜細胞に取りつき風邪を起こすウイルスです。「新型コロナはただの風邪」との主張は、この4種の風邪コロナウイルスからの類推で、コロナウイルスの起こす病気=風邪、と理解し、その外挿から新型コロナウイルスもただの風邪とみなすようです。
ところが、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の取りつくレセプターは全身の血管の内皮細胞に存在します。血管内皮細胞のACE2という、血圧を調製するアンジオテンシンという物質を合成する酵素に新型コロナウイルスは取りつき、細胞内へ感染していきます。血管は全身にくまなく広がっています。ですから、新型コロナはそのウイルスが上気道や肺だけに取りつく「風邪」ではなく、全身性の感染症です。
このようにウイルスの取りつく部位や細胞の違いにより、その病態も異なります。風邪やインフルエンザをこじらせて肺炎になる場合、呼吸器の粘膜細胞から、肺胞表面に感染し、肺実質側に炎症を起こします。一方、新型コロナ肺炎の場合は肺胞ではなく、その裏側の血管側=肺間質側に炎症を起こします。間質性肺炎です。間質性肺炎は、しばしば肺組織の繊維化を伴います。そのため、回復しにくい肺炎です。重症化すると肺機能を奪うので、その人の寿命とQOLを大きく下げてしまいます。
新型コロナのいろいろな症状や無症状感染であるにもかかわらず発生する後遺症なども同様に、全身性の感染症であること、血管に取りつくウイルスによる感染症であることで理解されます。
無症状感染には2種類あると思われます。ひとつはまだ発症していない潜伏期間の場合、これは体内ではまだ免疫が働いておらず、したがって細胞性免疫の攻撃により引き起こされるいろいろな症状はまだ出ていない状態です。この潜伏期間にウイルスは体内でどんどん増殖していいます。インフルエンザでも発症2日前の唾液のウイルス量が一番多く、他人にうつすと言われています。もうひとつは、無(自覚)症状感染状態です。新型コロナ感染症は最初の頃は武漢肺炎と呼ばれていました。その病態は肺炎と認識されています。したがって、肺の血管以外での炎症の発生は新型コロナ肺炎の症状とはみなされませんでした。
血管の内皮細胞内のウイルスに対する細胞性免疫の攻撃は、血管を痛めます、血管の酸化老化をおこします。これは、高血糖の作る活性酸素による血管の酸化老化病である糖尿病に似た症状を起こさせます。糖尿病の厄介なところは、なかなか自覚症状が現れないことです。そして、倦怠感などの自覚症状の現れた時には、すでに病気はかなり進行していることです。倦怠感以外にも、神経症状(知覚異常)、血栓などの症状を引き起こします。これらの症状は新型コロナの後遺症に似ています。新型コロナウイルスは「伝染性の糖尿病」とまでいうと言い過ぎでしょうか。若い人の命は奪わなくても、そのQOLを大きく下げるおそれがあります。
以上のように、新型コロナ(COVID-19)はただの風邪とは異なる全身性の感染症です。その本当の怖さを我々はまだ理解できていません。
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