書評 りょうしりきがく for babies サンマーク出版、2020 サイエンス・コミュニケーターを目指す人の必読書…かな?(片桐教授)
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本年度も後期の量子化学の講義が始まりました。毎年、第1回は量子力学の誕生の歴史の解説を行ない、その課題として「前期量子論に最も貢献したのは誰か?」という課題を出します。
今年の一番人気はやはり「プランク」で62%の受講者に支持されました。次点は「アインシュタイン」の17%、3位は「ボーア」の12%でした。
さて、この量子化学の第1回をその誕生の歴史から始めるのは、学生さんたちの多くがニュートン力学を引きずっているからです。マクロの世界を記述する「力を基盤とする」ニュートン力学の不都合と克服から「エネルギーを基盤とする」量子論が生まれてきたことを理解してもらい、マクロの世界の物理がミクロの世界に通用しなかったという歴史的事実を理解してもらうことから始めるためです。我々マクロの住人には、生活感覚で力は理解できても、エネルギーを理解することは困難です。生活感覚で量子の世界を理解することは極めて困難です。
そのような講義をどのようにすすめれば、学生さんにわかってもらえるか、を考え、ネットであれこれ調べている時に、『クリス・フェリ−著「りょうしりきがくfor babies」サンマーク出版、2020年』という絵本の存在を知りました。「大学生に教えることの難しい量子論の幼児向け絵本?」「なんじゃそりゃ?」と興味をひかれました。早速、アマゾンでポチりました。
読んでみました。なるほど。幼児も興味を引くであろう、幼児向けの絵本です。電子遷移をわかり易く記述しています。そして、間違った話しはありません。内容について興味を持つ人は、是非、購入してみて下さい。
量子論の啓蒙書は例えばニュートンプレス社からムックの形で何冊も出ています。私の教授室にも講義の参考資料として何冊かおいてあります。しかし、しかしです。量子力学の本質をこのような単純な絵とお話で表現するとは…脱帽です。サイエンス・コミュニケーターをめざす人は一度手に取るべき本…かもしれません。
この絵本の読み聞かせで育った幼児は、大学生や大人になってから、どのように量子論を理解するのでしょうか。
PS. 興味とアマゾンに送料を払うのが嫌で「そうたいせいりろん for babies」も同時に購入しました。こちらもすごい!。重力の意味からブラックホール、そして2つのブラックホールの回転による重力波の発生まで、幼児向けに書かれています。
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