デマを拡散しないように- 31 PCR検査の虚々実々(片桐教授)
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このブログの内容を不用意に拡散しないように。必要なら必ず裏をとり、引用文献などを読んで自分で確認し、理解し、検証してから、自分の言葉として発信しましょう。他人のことばをそのまま鵜呑みにするのは極めて危険な行為です。
SNSの中には、「PCR検査が新型コロナを生む」という因果関係の崩壊した論を述べている方もいます。新型コロナのPCR検査は、検体内のウイルスの遺伝子(RNA)をDNA化して、それをPCR法で複製・増幅し、その中から新型コロナの遺伝子に特有のものにより蛍光を出すプローブを使って、蛍光などによりウイルスのRNAの存在を検知する検査です。
「PCR検査が新型コロナを生む」という方は、そのプロセスで新型コロナウイルスが製造されているとでもいうのでしょうか。PCR法の開発者のマリスさんもびっくりです。あるいはシュレディンガーの猫のようにサンプルはウイルスの存在する状態と存在しない状態の重ね合わせだというのでしょうか。コペンハーゲン解釈も真っ青です。
それでも、PCR検査には感染しているのに陰性になる偽陰性も、感染していないのに陽性になる偽陽性もありえます。偽陰性は、新型コロナウイルスに感染していても、そのウイルスが鼻汁や唾液の中に分泌されていない場合に発生します。あるいはサンプリングの不備でも発生します。素人のへたくそなサンプリングではウイルスは見つからないかもしれません。
一方、偽陽性は、感染していなくてもそのウイルスの断片がそのようなサンプルに含まれてしまっている場合に起こります。PCR法による遺伝子の増幅は指数的に増やせるので、わずか1つの感染能力を失ったウイルスの断片でも、運が良ければ(?)検知されます。
コロナ禍の初期の頃は、検体はどの程度のウイルスを含むのな、感染者はどのくらいのウイルスを鼻汁や唾液に分泌するのかの情報に乏しかったため、偽陽性や偽陰性はしばしばPCR検査の信頼性の問題として取り上げられました。偽陽性について言えば、ヒューマンエラーの無い限り0.03%以下と報告されています [小黒一正「PCR検査体制の拡充と疑陽性の問題」 RIETI独立法人経済産業研究所HP [https://www.rieti.go.jp/jp/columns/a01_0611.html]]。したがって、偽陰性で感染者を見逃す恐れはあっても、偽陽性で非感染者を隔離してしまう恐れはあまりありません。
新型コロナ患者が出始めた2020年の前半の頃、日本では肺炎患者をCTスキャンやレントゲンにより診断し、その「肺炎」の治療を行なうことで、新型コロナ患者の命を救う戦略でした。新型コロナ感染症で致命的な症状は肺炎と血栓です。肺炎を糸口にして感染者を見つけて、治療する戦略は患者の命を救うということについて合目的的です。しかし、この方法では感染者を認知し、医療関係者を適切に保護できません。医療関係者のコロナ感染を招きます。また,無症状感染者を見つけ出すことはできません。それをPCR法で補うことになります。
2021年春頃から街中でプレハブの「PCR検査場」をみかけるようになりました。八王子駅の方にもそのようなプレハブがあります。また、ドラッグストアーでPCR検査キットを販売しています。保健所に斡旋してもらわなくても、病院でなくても、個人でPCR検査を受けられるようになってきました。しかし、適切な検体のサンプリングを行なわなければ、偽陰性になります。そのような検査の信頼性についてのリスクを忘れてはいけません。また、業者によっては検査結果を送ってこないなどのトラブルも発生しているようです。
PCR検査と抗体検査、抗原検査はよく混同されます。その違いを理解しましょう。PCR検査は唾液や鼻汁中のウイルスの遺伝子の存在を調べます。抗体検査は唾液や血液中の抗ウイルス抗体の発生を調べます。ウイルスに感染すると、そのウイルスを無効化しようとして免疫系は「中和抗体」を産生します。抗体検査ではこの抗体を検出します。妊娠検査キットのようにドラッグストアーでも販売している簡易型から、医療機関で行なう検査機器を使用する定性・定量検査まであります。また、ワクチン接種者はウイルスに感染していなくても、抗体検査では陽性になります[ 鈴木忠樹「COVID-19の抗原・抗体検査について」 令和2年度希少感染症診断技術研修会(2020.12.22)資料; https://www.niid.go.jp/niid/images/plan/kisyo/2_suzuki.pdf ]。抗原検査はそのような抗体の反応する抗原が存在するかどうかを、抗体を使って探し出します。感度は抗原の増幅プロセスのない分、PCRよりも劣るようです。
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