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2021年11月

2021.11.30

「コーオプ演習Ⅰ」中間発表(2021)(江頭教授)

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 本学工学部の特徴の一つ、コーオプ教育。その最初の授業と位置づけられるのが1年生後期の授業「コーオプ演習Ⅰ」です。授業内容は最新の工学・技術的トピックスについて調査し、発表すること。グループワークを中心とした授業で、賛否のわかれる技術上の課題やサステイナブル社会に関連する新技術などを対象として調査を行い、調査結果に基づいたディスカッションの内容を発表します。

 先日、この「コーオプ演習Ⅰ」の中間発表に参加してきました。

 本学科の1年生全員が必修の授業で、5~6人のチームにわかれると1チーム約8分の発表でも一会場では収まりません。今回は4会場で実施。私の参加した会場での発表は4班。比較的長い時間がとれるようになっているのはこれが中間発表会だから。学生間の相互の指摘や教員からのアドバイスをもとに内容や発表を改善するための場なのです。

 今回は

時事問題などをベースに,
サステイナブル社会を実現するために克服すべき問題を抽出し,
工学的な技術を用いて,どうやって理想の姿に近づけるかを提案する

という課題です。テーマ設定から皆で決めましょう、ということですね。さらに出口の条件として

理系の高校生(1年前の自分たち)を聴衆として想定し,
スライド(PowerPoint)を用い,
口頭でプレゼンテーションする

ということが決まっています。

 選ばれたテーマは当然ながら4班で別々。「森本先生の前で人工光合成とは何かを解説するなんて勇気あるなあ」とか「その図は2年生のサステイナブル環境化学の授業で見せる予定だよ」などなど。私としてはバラエティに富んでいて面白かったですね。でも、今回印象に残ったのは発表よりも質疑応答の方でした。

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2021.11.29

工学基礎実験Ⅱ(C)「レポート発表、講評、ディスカッション」(江頭教授)

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 応用化学科の1年生の学生実験は「工学基礎実験」という名称です。工学部共通の命名なので応用化学では正確には「工学基礎実験(C)」。前期はⅠなので今学期、後期の1年生の学生実験は「工学基礎実験Ⅱ(C)」となります。

 さて、後期も始まって8週間。折り返し点を越えて半分の実験が終了したので表題の「レポート発表、講評、ディスカッション」を開きました。提出されたレポートを教員がみて、これは、と思えるレポートを書いた学生さんに発表を依頼。学生さん同士の質疑応答と、それに加えて教員からの講評を行う、という会です。実験後半にも同じ趣旨の会を実施しますので、正確には「レポート発表、講評、ディスカッション(1)」ですね。

 毎年実施しているこの発表会ですが、昨年度対面ただし遠隔受講可」というハイブリッド形式としていました。今回は新型コロナウイルス感染症の状況が収まっていることを受けて対面での実施としました。

 今回と前回、対面とハイブリッド形式との差を改めて実感したのは質疑応答の部分でした。発表それ自体は発表者がオンラインに居ても対面とかなり近いレベルでできると思いましたが、質疑応答はかなりの差があります。対面での質疑応答には発表者と質問者の他に聴衆が居るのですよね。

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2021.11.26

「アナと雪の女王2」っておかしくないですか?(江頭教授)

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 私は「アナと雪の女王2」は公開当時(2019年の暮れだったかと)に見に行きました。その際の私の印象は、これは一言いわねばならん、でした。とはいえネタバレ無しで書くのは難しい。そう思って我慢していたのですが、先頃TV放映が有ったそうなので疑問を吐き出そう、というのが今回の趣旨です。あっ、「アナと雪の女王2」がディスられるのが耐えられない人はここまでにしておきましょう。

 まずはネタバレ無しで大まかなお話しから。大ヒットした「アナと雪の女王」の第一作目は素晴らしい音楽の魅力もありましたが、ストーリーが斬新で、今までディズニーが作ってきたプリンセスの物語とは明らかに違う、というのも人気の理由の一つだったと思います。

 とは言え、良く考えて見ると「アナと雪の女王」第一作はほとんど従来のプリンセスの物語をなぞっています。見ている私達は大体こうなるだろうと予測しながらみることになる。そして最後の部分でその予測を裏切ることで「今までのとは違う!」という新鮮な驚きを与えることに成功したのだと思います。

 その第一作を引き継いだこの「アナと雪の女王2」ですが、今度ははじめから「今までのとは違う!」ことをばかりなのです。新鮮な驚きを感じる以前に、物語は一体何の話をしているのか理解不能な状態に。どうして「これ」をすると「あれ」になるのか、斬新過ぎてよく分からない、という感じなのです。

(以降には「アナと雪の女王2」のネタバレを含みます。)

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2021.11.25

「人類のあるべき未来について考えてみてください」(江頭教授)

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 東京工科大学には大学院が併設されていて、我々応用化学科の学生が大学院に進学する際、普通は「サステイナブル工学専攻」に所属することになります。私はその「サステイナブル工学専攻」で「サステイナブル工学概論」という授業を担当しています。この授業のなかで「SDGs」について触れ、「あなたの研究はどのSDGsの目標に貢献しますか」つづいて「あなたの研究はDGsの目標5に貢献しますか」(ちなみに目標5は「ジェンダー平等を実現しよう」です)というレポートを書いもらったことはすでに紹介した通りです。

 さて、今回書いてもらったレポートは「人類のあるべき未来について考えてみてください」でした。詳しくは

2050年を超えて、未来の世界について考えてください。

人口・生活空間はどのようになっていて、農業・工業(エネルギー・資源と汚染)がどのような技術に基づいているのでしょうか。

「こうなるだろう」ではなく「こうなってほしい」「目指すべき未来を」考えてください。

という課題です。

 では、レポートを読ませてもらって思うことをまとめてみましょう。

 一つはほとんどの学生さんに人類の未来(あるべき、ではなく、ありそうな未来です)についての共通のイメージがある、という点です。曰く「人口は2050年頃に100億人程度でピークに達する。エネルギーは再生可能エネルギーに。資源節約のために徹底したリサイクルが必要だ。」多少の温度差はありますが、ある程度似通ったイメージが共有されているのですね。

 

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2021.11.24

「ハンス・フォン・ゼークト」大将の組織論(片桐教授)

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 ドイツの軍人「ハンス・フォン・ゼークト」大将の組織論、という格言?では、軍人を4種類に分類しその適切な職制・役割について述べています。

  • 利口で勤勉な者 =参謀に適している。
  • 利口な怠け者 =指揮官に適している。
  • 愚鈍な怠け者 =小隊長に適している。
  • 愚鈍で勤勉な者 =重用してはならない
  • だそうです。

別バージョンでは

  • 有能な怠け者。これは前線指揮官に向いている。
  • 有能な働き者。これは参謀に向いている。
  • 無能な怠け者。これは総司令官またはもしくは下級兵士に向いている。
  • 無能な働き者。これは処刑するしかない。

とされています。

 この格言?はいろいろなバリエーションや表現をもちます。また、多くの戦略家、戦術家の同様のコメントもあるようです。うろ覚えですがクラウゼビッツの戦争論にも同じように記述されていたように記憶しています。

 いずれも興味深いことに「怠け者」を指揮官にすることを薦めている点で共通しています。

 私自身はこれまでの経験から自分は出来損ないの「参謀」タイプと自認していました。働き者になろうと努めて来ました。しかし、なんということでしょう、新しくできる工学研究科の研究科長職を拝命しました。研究科長職はある意味指揮官です。その2年半の経験から指揮官は怠け者のであるべき理由を、私も理解してきました。

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2021.11.23

100%リサイクルってどういうこと(江頭教授)

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 皆さん、「リサイクル率」とはどういう意味だと思いますか?

 何かの製品がリサイクルされている。その製品を1個買ったとき、製品がリサイクル品である確率がリサイクル率

これが普通に思いつくリサイクル率の定義ではないでしょうか。

 たとえば新規に作られた製品がすべて回収され、一度だけリサイクルされたとします。この場合、市場に出ているその製品は半分が新品、のこりの半分はリサイクル品となります。つまりリサイクル率は50%となります。

 ではリサイクル率が90%というのはどんな状態でしょうか。市場に出ている製品のうち新品は10個に1個。それ以外の9個はリサイクル品なのですから新品は平均で9回リサイクルされることになりますね。

 一般化すればリサイクル率がx%のとき、リサイクルされる回数は x/(100-x) となります。

 さて、最近「日本コカ・コーラ、旗艦製品で100%リサイクルのペットボトル採用」という記事を見つけました。

 先の式に x = 100% を代入すると…リサクルされる回数は無限回になってしまいます。そもそも、購入する製品が全部リサイクル品だとしたら新品が作られないということ。最初のリサイクルでは一体何をリサイクルしているのでしょうか?

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いや、ちゃんと見てみましょう。この記事では「100%リサイクル」と言っているだけで「リサイクル100%」とは言っていません。

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2021.11.22

東京工科大学八王子キャンパスで5Gが利用可能に?(江頭教授)

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 先日、何気なくスマートフォンを確認すると以下の様な画面に。右上の黄色い丸で囲んだ部分を注目してください。いつの間にか東京工科大学の八王子キャンパスで5Gが利用可能になっていました。そうか、これでインターネットの速度がぐっと速く…あれっ?そういえば大学キャンパスでは通信の速度について全く気にしていなかったなあ。

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それはそのはず。よく考えてみると本学のキャンパスの教室では大学が用意した無線LANによるWiFi環境が整備されていて、携帯電話のモバイル回線を使うことは通常ありません。

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2021.11.19

エネルギーに基づくpHの定義(江頭教授)

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 以前こちらの記事でpHの定義について「何で対数関数にするのか分からない。そもそもなんでマイナスが付くんだよ。」と暴言を吐いたところ、片桐教授に「エネルギーに比例する尺度である」と諭されてしまいました。いや、ごもっとも。言われてみればその通り。

 それならそうと最初から言ってくれれば良いのに。pHというのは溶液の中にいる「H+イオン」のエネルギーのこと。エネルギーが低い、というのは、安定だ、ということですからたくさんの「H+イオン」が居る。少ししか「H+イオン」が居ない場合はエネルギーが高くて不安定だ。こう考えるとpHが大きい方が「H+イオン」が少ない、というのも納得できますね。

 pHが大きい液体とpHの小さい液体を「H+イオン」が自由の行き来できる膜を通して接触させれば「H+イオン」はより安定になろうとしてpHの大きい液から小さい液に向かって移動する。一緒に電荷移動が起こるので両方の液の間に電位差ができますが、エネルギー差とつり合って移動が止まったときの電位差からpH(正確には両液のpHの差)が分かる。なるほど、pHメータの原理(こちらの記事その補足)とも直結しています。

 なんだ、こっちの方が見通しが良いじゃないか。いっそのことpHはこのエネルギーから定義したら良いのに。などと思っていると、本当にそういう定義をしているところがありました。JIS(日本工業規格)による定義がそうなっているのです。

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2021.11.18

デマを拡散しないように- 37 同調圧力(片桐教授)

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 このブログの内容を不用意に拡散しないように。必要なら必ず裏をとり、引用文献などを読んで自分で確認し、理解し、検証してから、自分の言葉として発信しましょう。他人のことばをそのまま鵜呑みにするのは極めて危険な行為です。

個人の安全vs.公衆の安全

 社会的に許容されるレベルとは言え、ゼロリスクではないワクチンを、「臨時接種」という法の枠組みの中で、金銭的負担無しで,行政の多大な努力で行なっているのは、このワクチン接種の受益者は接種を受ける個人というよりも社会全体にあることを示しています。社会全体の利益は「集団免疫の形成」です。それによる医療崩壊の回避です。今回のワクチン接種は個人の安全というよりも公衆の安全を目指すものです。そして、公衆の安全はひとりひとりの安全につながります。

 この公衆安全=「みんなのための予防接種」という考え方は暴走すると、ワクチンを射てない人への理不尽な同調圧力になります。何らかの理由でワクチン接種を受けられない人は一定数存在します。そのような人へ短絡思考的に「ワクチンを射て」「射たないのは公衆の敵だ」とする行為、差別的な行為はなにがあっても避けなければなりません。しかし、ワクチンパスポートなどの実施により,ワクチンを受けた者と受けなかった者が区別されると、その区別は差別の種になります。どうすれば良いのか、まだ答えはありません。

 ワクチンを射つか射たないかは、個人のマターです。周囲にワクチン忌避者がいた場合、「十分に調べて考えたか」を問うことは良いのですが、「ワクチンは射つべきだ」という結論をもって圧力を掛けるのは間違った行動です。

 副反応が怖いからワクチンを忌避する人には、ワクチンと感染のリスクを冷静に比較させましょう。あるいは、このブログにあげたような心理バイアスにその人がはまっている可能性を教えてあげましょう。

 陰謀論からワクチンを忌避する人には、ワクチンをディスるSNS上の噂の多くが、ワクチンで第3国を牛耳りたい特定の2カ国発であるとのEU委員会の報告を教えてあげましょう[https://jp.reuters.com/article/health-coronavirus-disinformation-idJPKBN2CF2MR]。そのようなカリコ・ワクチンをディスる行為は、「洗脳により国際謀略の片棒を担がされているのかも知れない」と教えてあげましょう。そういう陰謀論の人は、自分が別の陰謀論の手先になり加担させられているということを嫌います。

 それでも一定数の人は体質的にワクチンを射てない場合があります。あるいは何らかの理由でお医者様に止められているかもしれません。そのような場合にワクチンを射つように圧力を掛けるのは、もはやハラスメント、犯罪行為です。

 そして、同調圧力にはファシズムの臭いを感じます。それを許す社会は健全ではありません。

 そのような同調圧力はどのようにして発生するのでしょうか。私はいくつかの要因があると思います。

  1. おせっかい:親御さんが十分なワクチンへの理解もなく、子どもにすすめる場合、あるいは「周りが接種しているから」等の理由で、考えなく、しかし、善意から勧めてくることがあります。
  2. 自説の正当化:ワクチンを忌避している人を,自分の論理で接種者に寝返らすことができれば、自分の論理、ワクチン接種を正当化できます。自説の正当性を確認できます。だから、積極的に寝返らそうとします。自分のワクチン接種に自信のない人の行動です。
  3. 公衆衛生の立場からの圧力:集団免疫の形成にはワクチン接種者を増やすことが必要です。その目的で、相手の個人的な事情よりも公共の福祉を優先しようとします。
  4. 異端諮問(正義の味方):とにかく集団の行動に従わない人間が気に食わない人はおります。マスク警察もそうですね。
  5. 要するに、同調圧力でごり押ししてくる人の多くは、自分が正しいと思っている、思いたい人だと思われます。それだけに同調圧力は厄介です。

 ワクチン忌避を決めた人は、これからも重症化の恐怖におびえながら、ワクチンパスポートの恩恵も受けられず、皆が安心を獲得した時にも危機に立ち向かう、そんな覚悟と矜持を持って孤高の生き方を選んだ人です。もしワクチン忌避がその人の十分に考えた末の決断なら、それは十分に尊重すべきです。

 正直、私には、その覚悟も矜持もありません。このワクチンの仕組みを十分に理科し、自分のアレルギー体質というリスクを勘案し、それでも今回のワクチン接種を受けました。

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2021.11.17

「「超」整理法」を実践してみて(江頭教授)

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 先日紹介した野口 悠紀雄氏の著書「「超」整理法―情報検索と発想の新システム (中公新書)」にある書類の整理方法(同書の中では「押し出しファイリング」などと呼ばれています)いや、「超」整理方法ですが、この本を読んだ当時の私はいたく感激して一念発起。自分も同じ方法をで書類を整理してみよう。そう思ってはじめたのが何時のことなのか、今となっては正確なことは分かりません。でも一つだけ確かなのは、今も私が同じ方法を続けている、ということです。

 最低でも20年以上、この方法で対応してきた、対応できた、ということはこの方法が優れた方法だったという証拠でしょうか。いえ、本当はもっと良い方法が有ったかも知れず、20数年前の私がその方法にたどり着く前に諦めてしまった、という可能性もあります。とはいえ、これだけ続けられたのですから私には合った方法だったということは言えるでしょうね。

 この「超」整理法が最善の方法だったかどうかはひとまず措くとして、書類の整理という問題は実は時間によって解決された、いえ「時代」によって解決されたという側面もあると思います。

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2021.11.16

デマを拡散しないように- 36 ワクチンを射つか射たないか。(片桐教授)

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ワクチンはゼロリスクではない

 2021年秋、日本で行なわれている予防接種のワクチンはファイザー社製のものとモデルナ社製のものです。両方ともmRNAワクチンです。選択の巾は、残念ですが、まだこの2種類しかありません。しかも、あなたに適しているのはどちらのワクチンかを事前に知ることはできません。その指針すらまだありません。副反応の有無などは、接種してみなければわかりません。例えるなら、このワクチンは試着のできない吊るしのスーツです。人それぞれにあつらえたテーラーメードのワクチンは夢の技術です。残念ながら、我々の科学技術は、まだそこまで進歩していません。免疫についても対象となるウイルスについても完全に理解できていません。さらに、そのような個人個人に最適化したテーラーメイド・ワクチンは実現しても大変高価になり、その開発までには長い時間を必要とします。今回のようなパンデミック感染拡大には対応できません。だから、無理をして既存の「吊るしの」ワクチンを使うことになります。そのため、そのワクチンの規格から外れた人は、重大な副反応のリスクを避けられません。ワクチンはゼロリスクではありません。

 上記のレベルでワクチンや免疫を理解していると、ワクチンは絶対安全なものではないと理解できます。何も知らずに「周りが接種するから私も接種する」人は幸せかもしれません。あるいは「副反応が怖いから私はワクチンを接種しない」と考える人は悩まなくて良いかもしれません。でも、ある程度理解してしまったあなたは、ここで決断しなければならないでしょう。

「射つべきか射たざるべきか、それが問題だ!」

ハムレットの有名な台詞ではありませんが、あなたはあなたと周りの人たちの生命のための「正しい」判断をあなた自身で行なわなければなりません。ワクチンはゼロリスクではない以上、射つか・射たないかの最終決断は個人個人に委ねられます。それを周囲の人の同調圧力でねじ曲げてはいけません。

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ワクチンは自動車の任意保険

 ワクチンは自動車の任意保険に例えられます。任意保険はかなり高額で家計に痛い保険料(副反応)を必要とします。しかし、掛ければ事故のとき(感染したとき)に自賠責(自然免疫)よりも強力な保険システム(獲得免疫)により守られます。もちろん、そんな任意保険に頼らなければならないような大事故(重症化)に遭遇する確率は極めて希です。しかし、任意保険を掛けて(ワクチン接種して)いなければ、経済的に破滅(重症化→死亡)することもあります。それを避け、安心するために任意保険に加入(ワクチン接種)します。でも、保険を掛けたからといって、事故に合わなくなる(感染しなくなる)わけではありません。保険に入っていても、安全運転(感染予防)に努めなければなりません。

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片桐 利真

 

2021.11.15

「第3回大学院フェスティバル」が開催されました(江頭教授)

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 皆さんの中で「大学院フェスティバル」という言葉を聞いたことがある人は少ないのではないでしょうか?昨年もこの書き始めでご紹介したのですが、本学工学部に接続している大学院、サステイナブル工学専攻が毎年開催しているイベントの名称です。昨年までは、対象者は本学の学部学生。大学院生が学部生に向けて自分がどんな研究をしているのかを紹介する、それがイベントのメイン、と紹介していたのですが、今年は他のコンテンツも。助教の先生たちが学生時代を振り返るパネルディスカッション。そして他大学の先生にお願いした招待講演(これは昨年からスタートしています)もあり順調に発展しています。

 我々応用化学科の学生が大学院に進学する際、普通は「サステイナブル工学専攻」となります。「応用化学専攻」ではないのですね。「サステイナブル工学専攻」は「工学部」とは異なって学科ごとの運営ではありませんから、この大学院フェスティバルというイベントも応用化学に限定されずにいろいろな専門の学生さんが参加することとなります。加えて今年は高校生の参加もありました。

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2021.11.12

黒ひげ詐欺(江頭教授)

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 今回のコロナウイルス感染症騒動でマスクを付けるようになってから、かなり昔にやっていたNHKの大河ドラマ「八代将軍吉宗」の1シーンを思い出すようになりました。(今調べると「八代将軍吉宗」は1995年の大河ドラマだったのですね。)

 このドラマ、主役の徳川吉宗役は西田俊行氏ですが、もちろん幼少時代は別の子役の方が演じていました。徳川吉宗は疱瘡(天然痘)を煩ったとのことで、(子役が演じる)吉宗が疱瘡になる→包帯で顔までぐるぐる巻き→包帯を取ると西田俊行(さんが演じる徳川吉宗)という描写があって、凄く印象に残っているのです。

 あの紅顔の美少年がこんなおっさん顔に。疱瘡ってなんて恐ろしい病気なんだ!

って、おいおい。

 えっ、コロナとなんの関係があるか?それは皆さん、コロナ禍が終わればいままで付けていたマスクを外すことになるじゃないですか。

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2021.11.11

サステイナブル工学プロジェクト演習」中間報告会(2021)(江頭教授)

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 11月10日「サステイナブル工学プロジェクト演習」中間発表会が開催されました。これは本学工学部の3年生によるグループワークでの発表会です。この「サステイナブル工学プロジェクト演習」の特徴は3学科合同の授業である、という点です。この中間発表に向けた取組では異なる学科の学生が集まってグループをつくることが特徴になっています。

 発表内容はいろいろな工業製品について、そのライフサイクル全体での環境負荷をどのようにして小さくするか、その方法を提案する、というものです。今回は環境ラベル「エコリーフ」に登録されている工業製品を対象とし、公表されている環境情報データを元に、具体的な改善提案を行い、その効果を評価しました。

 改善提案としていろいろなアイデアを出すことはできても、その効果を評価することは一般的には難しいものです。本学工学部で1年のときから行ってきた「サステイナブル工学」に関する授業で学修したLCA(ライフサイクルアセスメント)の知識を応用することで、はじめて評価を含めた提案が可能になるのです。

 さて、ではその発表の様子をみていただきましょう。

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2021.11.10

デマを拡散しないように- 35 アレルギー(片桐教授)

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 このブログの内容を不用意に拡散しないように。必要なら必ず裏をとり、引用文献などを読んで自分で確認し、理解し、検証してから、自分の言葉として発信しましょう。他人のことばをそのまま鵜呑みにするのは極めて危険な行為です。

 先のブログ(デマを拡散しないように- 34 ワクチンの副反応の機構)で副反応とアレルギー体質の関係について少し述べました。アレルギー体質の人は副反応を起こし易いと推測されます。ワクチン接種でも、アレルギーの有無を問診で聞かれます。筆者はアクロレインをハプテンとしたアレルギーとヨウ化メチルによる化学過敏症で苦しんだ経験を持ちます。問診でその旨を述べたところ、接種後の経過観察時間を通常の15分ではなく、30分にされました。そして、予想通り、少し強めの副反応を経験しました[http://blog.ac.eng.teu.ac.jp/blog/2021/06/post-ccf7f4.html] [http://blog.ac.eng.teu.ac.jp/blog/2021/07/post-3494c8.html]。

 今回はアレルギーをもう少し詳しく解説します。

Ⅰ型アレルギーとⅣ型アレルギー

 免疫系の暴走のひとつとして、アレルギーはよく知られています。花粉症などのアレルギーはⅠ型アレルギーとⅣ型アレルギーに大きく分類されます。Ⅰ型アレルギーは即時型と呼ばれ主にヒスタミンを情報伝達物質とする液性免疫によります。短期間で症状が現れます。

 Ⅳ型は遅延型と呼ばれ細胞性免疫によります。徐々に症状が現れ、なかなか収まりません。

 Ⅰ型アレルギーは抗ヒスタミン剤で、ある程度抑えられます。一方、Ⅳ型の有効な治療薬はまだありません。唯一有効なのはステロイド剤です。ステロイド剤は、細胞性免疫を抑制する時に有効です。そのため、重症の新型コロナ肺炎の細胞性免疫によるサイトカインストームを抑制する治療薬としてステロイド系のお薬を使います。しかし、まだ病原体の残存している時にステロイドを使うと、細胞性免疫にウイルスを見逃させてしまいます(「寛容」と呼ばれます。)。細胞性免疫の抑制により細胞へのウイルス感染拡大を許してしまいます。細胞性免疫を無理矢理にストップさせると免疫不全になります。ステロイド剤の使用の難しさはここにあります。肌の荒れた時に使うステロイド剤を、素人判断で水虫などに使うと、免疫系を抑えてしまい白癬菌の増殖を許し、取り返しのつかないことになります。

ここからは脱線です:

 私が会社員のころ、今からおおよそ30年前、iV型アレルギーの薬の開発をしておりました。私の分担は薬品合成でしたが、それに加えて破壊消火の主役である活性酸素を強制的に消去する分子構造の開発を検討していました。

 その当時、活性酸素の正体は薬学的にはヒドロキシルラジカル(HO・)と考えられていました。そのため、プロブコールのようなゴムの酸化防止剤の構造をもつお薬が用いられておりました。しかし、生体内で短寿命のヒドロキシラジカルがふよふよと漂って、作用するとは、ラジカル化学で学位を取った私には信じられませんでした。

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プロブコール

 

ある部分構造にこのdi-tert-Bu-phenol構造を導入したお薬のプロトタイプは、確かにネズミを使った羊赤血球iV型アレルギー病態モデルに有効でした。しかし、その抑制率は50%程度でしかも大量にdoseする必要がありました。

 ぜんそくで死亡した方の肺の剖検写真と、硝酸の事故で亡くなった方の剖検写真との類似性から、私は窒素系の小分子の関与を疑いました。当時は丁度バイアグラが医薬品として注目を集めていた時期であり、低分子の窒素酸化物の薬理が盛んに研究されていました。また免疫を活性化させる核内の因子としてNF-κBというものが知られていましたが、これがオゾン(O3)で活性化される、という論文もその頃に報告されました。ルイス構造的にオゾンに類似の窒素分子として、NO2ラジカルがあります。これは四日市喘息の原因物質と言われています。このNO2とHO・を同時に放出する化合物を「真の活性酸素種」と仮定し、その比較的安定な状態のものを効率よく分解する活性酸素消去部位構造を分子設計し、先の「ある部分」にdi-tert-Bu-phenol構造の代わりに取りつけたところ、先のアレルギー病態モデル試験での抑制率は100%となりました。[磯部、片桐、梅沢、後藤、小原、佐藤、新規なウラシル誘導体及びそれを有効成分とするアレルギー疾患治療薬、特開8-27121、平成8年1月.]

 この医薬品を開発候補品として前臨床にあげたところで、私は会社を退職し大学教員になりました。

 この薬は前臨床の犬を使った毒性試験を通らなかったそうです。これは、あまりにも完全に細胞性免疫を抑制してしまうために、無菌ネズミでは問題にならなかったのですが、雑菌の中にいる犬では細胞性の免疫機能の機能消失で、ウイルス性の疾患にかかり死んでしまったためだそうです。効きすぎる薬は毒になるということでしょう。

 このブログの内容を不用意に拡散しないように。必要なら必ず裏をとり、引用文献などを読んで自分で確認し、理解し、検証してから、自分の言葉として発信しましょう。他人のことばをそのまま鵜呑みにするのは極めて危険な行為です。

片桐 利真

 

2021.11.09

「あなたの研究はDGsの目標5に貢献しますか」(江頭教授)

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 東京工科大学には大学院が併設されていて、我々応用化学科の学生が大学院に進学する際、普通は「サステイナブル工学専攻」に所属すること。私がその「サステイナブル工学専攻」で「サステイナブル工学概論」という授業を担当していることは前の記事でも紹介しました。さらに、この授業のなかで「SDGs」について触れ、「あなたの研究はどのSDGsの目標に貢献しますか」というレポートを書いもらったことも紹介した通りです。

 さて「あなたの研究はどのSDGsの目標に貢献しますか」にはいろいろな目標が選ばれたのですが中には誰にも選ばれなかった目標も。その一つが目標5の「ジェンダー平等を実現しよう」でした。まあ分からなくもないですね。でもここは敢えて「あなたの研究はDGsの目標5に貢献しますか」というレポートを重ねて書いてもらいました。Photo_20211109073001

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2021.11.08

デマを拡散しないように- 34 ワクチンの副反応の機構(片桐教授)

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 このブログの内容を不用意に拡散しないように。必要なら必ず裏をとり、引用文献などを読んで自分で確認し、理解し、検証してから、自分の言葉として発信しましょう。他人のことばをそのまま鵜呑みにするのは極めて危険な行為です。

 前のブログ(片桐ブログ 336 デマを拡散しないように- 33 カリコ・ワクチン)で述べたように、ワクチン接種を受けると、細胞性免疫(白血球)は活性酸素で疑似感染細胞を攻撃します。そのため、その疑似感染細胞だけではなく、周囲の細胞も活性酸素により傷つき、炎症を起こします。破壊消火の実践的な練習をするわけですね。

 新型コロナに対するカリコ・ワクチンは「破壊消火」の練習です。免疫系はこのワクチンに反応して、破壊消火活動を行い、ヒトの体にある程度のダメージを与えるおそれがあります。そのダメージが副反応の本質です。そのため、その症状は、規模は小さくても、新型コロナに感染した場合の症状と類似です。

 疑似感染細胞が無くなれば本来は攻撃終了になるはずです。でも、制御性T細胞(昔はサプレッサーT細胞と呼ばれていた)の発する攻撃終了指令が遅れると、いつまでも白血球は周りへの活性酸素攻撃を続けます。攻撃終了命令を速やかに出せば、副反応はほとんどありませんし、遅れれば副反応は長く続き、本当に感染した場合のようにいろいろな炎症による障害を引き起こします。火事(ウイルス感染)を消し止めて、もう延焼(周囲の細胞へのウイルスの感染拡大)の心配はないのに、火消し(細胞生免疫)は周りの家(細胞)を破壊し続けます。これは本質的に免疫系の働きが正のフィードバックで拡大させるようにできているためです。

 元々、新型コロナウイルスの引き起こすいろいろな症状、例えば発熱、肺炎などの炎症、血栓、神経症状などのほとんどは免疫系の引き起こすものです。細胞性免疫の働き易い環境を整えるために発熱します。炎症は白血球の攻撃の流れ弾で起こります。

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 少し脱線しますが、ARDS(急性呼吸窮迫症候群)という致死的な肺炎の症状があります。これは細胞性免疫の暴走による症状です。長くがんと闘い、抗がん剤や放射線治療などで、ガンがすこし弱まると、これまでガンを攻撃していた細胞性免疫が攻撃対象を失って、暴走し、酸素の豊富な(それゆえに活性酸素を作り易い)肺でこのARDSを起こしてしまいます。昔の作家ですが遠藤周作さんの死因はこのARDSと言われています。「長くがんを患っていたが、肺炎で亡くなった」と新聞の死亡記事に記載されている場合は、ほぼこのARDSです。

 この副反応の発現や規模は、ワクチンそのものではなく、ヒト側の免疫系によります。細胞免疫の司令塔のひとつの「制御性T細胞」(昔はサプレッサーT細胞と呼ばれていた)が効率よく働き、必要最小限の破壊消火でとどめれば、副反応は弱くあるいは起こりません。しかし、制御性T細胞の働きが悪く、いつまでも「破壊消火ヤメ!」の指令を出さないと、必要以上に炎症を広げ、強い副反応を招きます。

 この制御性T細胞の働きの悪い人は、過剰に抗原に反応し続けますから、花粉症などのアレルギー体質になります。そのため、コロナワクチンの接種ではアレルギー体質かどうかを問診で確認します。私のようなアレルギー体質の人はワクチン接種後の待機時間が30分に延長されます。http://blog.ac.eng.teu.ac.jp/blog/2021/06/post-ccf7f4.html

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片桐 利真

 

2021.11.05

うちの生徒にゃ髭がある(江頭教授)

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 本学の新型コロナウイルス対応のオンライン中心の授業態勢は先月10月の半ばで終了。今は対面授業が中心になっています。研究室でも同様で以前は実際の実験時間を中心に限られた時間だけ研究室に来ていた学生諸君ですが、最近では研究室で過ごす時間もだんだん増えてきています。

 そんな状況ですから研究室で昼食をとる学生さんを見かけることも。もちろん「個食」「黙食」な訳ですがさすがにマスクは外している。大学でマスクを外している人を見ると今でも少しドキッとしますが、それもだんだん見慣れた光景になってゆくのでしょう。昔の様にマスク無しで大学生活を送れるようになるのは一体いつ頃なのでしょうか。

 などと考えながら学生さんの食事風景を見てビックリ。えっ、きみ髭を生やしたのかい。

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2021.11.04

(推薦図書)野口 悠紀雄著 「「超」整理法―情報検索と発想の新システム (中公新書)」(1993/11/1) (江頭教授)

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 1993年の(偶然ですが)ちょうど11月出版の本なので、28年前の本ということになります。この当時、なんでもかんでも「超」という言葉を付けるのが流行っていたので、私のこの本のタイトルを見たときの第一印象は「また流行に乗って「超」とかタイトルにつけちゃって」というややネガティブなものだったような。ところが読んでみてビックリ。本当の意味で「超」整理法、整理を超越する、つまり整理をしない、というのがこの本の要点なのです。

 ちょっと話が先走りしましたね。この本はビジネスマンや研究者に向けて、自分のところに入ってくる情報を如何に整理して効率的にアウトプットにつなげるか、という方法・ノウハウについて書かれた本です。これに類する本は「知的生産の技術(岩波新書)」(梅棹忠夫著)をはじめとしていくつも出版されていました。先に「入ってくる情報」と書きましたが、当時のことなので情報は本当に物理的なかたちで入ってきます。要するに情報が印刷された紙がどんどん届いて処理しきれないで溜まっていく、さあどうしよう。という訳で書類整理のノウハウをもとめてこの手の本が読まれていたのですね。

 そこでこの「「超」整理法」なのですが、先ほども述べた様に「整理」という考えを越えた情報の処理方法を提案しています。

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2021.11.03

「あなたの研究はどのSDGsの目標に貢献しますか」(江頭教授)

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 東京工科大学には大学院が併設されていています。本学の学部から進学する人も、外部から入学する人もいて、大学と大学院は完全に繋がったものではありません。とはいえ「大学院の研究室」というものはなくて学部の学生も大学院の院生も同じ研究室で研究するのです。一体化しているとは言いませんが、強いつながりがあるというところでしょうか。

 さて、我々応用化学科の学生が大学院に進学する際、普通は「サステイナブル工学専攻」となります。「応用化学専攻」ではないのですね。「サステイナブル工学専攻」は「工学部」とは異なって学科ごとの運営ではありません。大学院の授業も工学部、じゃなかったサステイナブル工学専攻で共通となります。

 大学院で私が担当する授業は「サステイナブル工学概論」。「サステイナブル工学専攻」そのもの、というタイトルですね。まあ、学部のサステイナブル工学の授業から続いて担当するというところでしょうか。

 今回、この授業のなかで「SDGs」について触れてみました。ほとんどの院生諸君はSDGs自体は知っている様子で少し物足りないかも。学部生とは違って大学院生には「自分の研究」というものがありますから、ここでは「あなたの研究はどのSDGsの目標に貢献しますか」というレポートを書いてもらいました。

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2021.11.02

デマを拡散しないように- 33 カリコ・ワクチン(片桐教授)

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 このブログの内容を不用意に拡散しないように。必要なら必ず裏をとり、引用文献などを読んで自分で確認し、理解し、検証してから、自分の言葉として発信しましょう。他人のことばをそのまま鵜呑みにするのは極めて危険な行為です。

カリコ・ワクチンの仕組み(承前)

 前のブログ(「デマを拡散しないように- 32 ワクチンと免疫について」)でも述べたように、ファイザー、モデルナのmRNAワクチンはカリコ博士らにより開発されました。その病原体(ウイルス)の遺伝情報のRNAにより短期間で開発できる新しいタイプのワクチンです。ウイルスの部品の蛋白の一部の設計図のmRNAを油滴に閉じ込めて安定化したものです。逆転写酵素は含まれていないので、ウイルスのようにヒト遺伝子を書き換えてDNAを汚染しません。

 カリコ・ワクチンの目的はmRNAによるヒト細胞の新型コロナへの疑似感染です。カリコ・ワクチンのmRNAは、ヒト細胞に潜り込み、ウイルスの部品の一部を作らせます。しかし、ワクチンには逆転写酵素はふくまれていないので、mRNAはヒト細胞のDNAに組み込まれてしまうことはありません。mRNAワクチンによりヒトDNAの遺伝子組み換えは起こりません。DNAを汚染することはありません。

 一方、新型コロナウイルスに感染すると、ウイルスは逆転写酵素を使って積極的にヒトDNAの中に自分のRNA由来の遺伝情報をDNAに組み入れ、これを元にしてウイルスの部品を作成させて、増殖します。ウイルスは遺伝子組み換えを行ないます。HIV(AIDSの原因ウイルス)のカクテル療法の治療薬として逆転写酵素阻害剤(例えばAZT)を使うのは、このような逆転写酵素を阻害しても人間の生命活動への影響は最小限であり、ウイルスの増殖活動だけを選択的に抑えられるからです。

 カリコ・ワクチンはこのような獲得免疫の細胞性免疫にウイルスを予習させるものです。ワクチンによる疑似感染細胞を攻撃することで、細胞性免疫はこのウイルスを予習し、本番の感染時に感染細胞を速やかに焼き殺し、排除できるようになります。これが、カリコ・ワクチンの「重症化予防」効果です。

 ある意味、この細胞性免疫の働きは江戸時代の「破壊消火」に似ています。延焼を食い止めるために家屋を破壊するように,感染したヒト細胞を破壊しそれ以上のウイルスの蔓延(延焼)を食い止めます。

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 それに加え、カリコ・ワクチンでは「中和抗体」も産生します。これは望外の副次効果です。これにより「感染予防効果」もある程度期待できます。しかし、この感染予防効果は、普通は数ヶ月で消えてしまいます。インフルエンザの予防接種は毎年受けなければ感染予防になりません。

 マスコミは新型コロナワクチンについて、この「感染予防効果」を大きく取り上げています。あたかも今回のワクチンの目的は感染予防であるかのように報道しています。局限対策よりも予防対策を重視する日本人的な扱い方です。

 しかし、抗体産生は比較的短期間で終わってしまいます。有効期間は数ヶ月程度しかありません。一方、細胞性免疫の記憶は長持ちします。水疱瘡のように一生もつこともあります。今回の新型コロナウイルスのワクチンの体内の局限対策の有効期間は現時点でまだ分かりません。後臨床調査(臨床第Ⅳ相)の研究調査結果を待ちましょう。

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片桐 利真

 

2021.11.01

デマを拡散しないように- 32 ワクチンと免疫について(片桐教授)

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 このブログの内容を不用意に拡散しないように。必要なら必ず裏をとり、引用文献などを読んで自分で確認し、理解し、検証してから、自分の言葉として発信しましょう。他人のことばをそのまま鵜呑みにするのは極めて危険な行為です。

ワクチンについて

 ファイザー、モデルナのmRNAワクチンはカリコ博士らにより開発されました。その病原体(ウイルス)の遺伝情報のRNAを抜きだして加工したもので、短期間で開発できる新しいタイプのワクチンです。ウイルスの部品の蛋白の一部の設計図をmRNAの形で油滴に閉じ込めて安定化したものです。逆転写酵素はふくまれていないので、ウイルスのようにヒト遺伝子を書き換えてDNAを汚染する恐れはありません。パンデミック時の緊急ワクチンです。

 ワクチンは個人個人で大きく異なる免疫系への人工的な介入です。体内に投入する侵襲性の高いものです。しかも、使われるワクチン薬剤に種類や選択の巾はなく、どのワクチンが自分にマッチしているかを知る方法もまだありません。例えるならワンサイズしかない吊るしのスーツを試着無しで買うようなものです。自分に似合うかどうか以前に、サイズは合っているかどうかは買って着てみるまで分かりません。ひとりひとりにマッチしたワクチンは未来のテーラーメード医療の課題です。まだまだ科学技術の進歩を必要とします。

 ですから、ワクチンを受けるかどうかは、まず、ワクチンがゼロリスクではないことを理解した上で、ひとりひとりがリスクとベネフィットを秤に掛け個人個人で判断するべき事項であると思います。でも、そのためにはワクチンと免疫の基礎について理解しなければなりません。

 

自然免疫と獲得免疫

 免疫には自然免疫と獲得免疫があります。自然免疫は生まれつき持っている外部からの侵入者に対する免疫で、特定の抗原に対する特異的なものではかならずしもありません。よく、「私の免疫は強い」とか「食後のヨーグルトで免疫を鍛える」とか「早寝早起き朝ごはんで免疫を鍛える」というときの免疫です。

 獲得免疫は、病原体の感染やワクチンによる病原体の予習で獲得される免疫です。水疱瘡など,一度感染すると免疫系はそれを記憶します。それにより獲得した免疫で、同じ病気にはかからなくなるor発症しにくくなります。ワクチンはこちらの獲得免疫を人工的に得っるためのものです。

抗体性免疫(液性免疫)と細胞性免疫(白血球による免疫)

 多くの方は、免疫=抗体と勘違いされています。かなり大雑把ですが、抗体は病原体に特異的に作用するY字型のタンパクです。抗体は病原体をブロックしてヒト細胞に作用しにくくし、感染を予防します。一方で、ウイルスに感染したヒト細胞を見つけ出し、これを活性酸素によりヒト細胞ごと焼き殺すのが白血球システムによる細胞性免疫です。

 理解し易くするために少し嘘が入りますが、ウイルス感染症の場合、抗体(液性免疫)は「感染予防」(体内での予防対策)、白血球(細胞性免疫)は重症化の予防(体内での局限対策)のアイテムと考えられます。

 今回のカリコ・ワクチンはmRNAをヒト細胞中に導入し、ウイルス部品のスパイク蛋白の一部をそのヒト細胞に作らせます。ワクチンにより「疑似感染」した細胞はその内部で合成した蛋白を短めのペプチドとして切り出し、これを細胞外に提示して白血球システムの審査に掛けます。白血球はヒト細胞内にあるはずのないペプチドを見つけると、このヒト細胞ごとウイルスを焼き殺そうとします。カリコ・ワクチンはヒト細胞を「疑似感染細胞」にして、これを白血球に攻撃させることで、白血球にそのウイルスを予習させます。

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 このブログの内容を不用意に拡散しないように。必要なら必ず裏をとり、引用文献などを読んで自分で確認し、理解し、検証してから、自分の言葉として発信しましょう。他人のことばをそのまま鵜呑みにするのは極めて危険な行為です。

 

片桐 利真

 

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