エネルギーに基づくpHの定義(江頭教授)
| 固定リンク 投稿者: tut_staff
以前こちらの記事でpHの定義について「何で対数関数にするのか分からない。そもそもなんでマイナスが付くんだよ。」と暴言を吐いたところ、片桐教授に「エネルギーに比例する尺度である」と諭されてしまいました。いや、ごもっとも。言われてみればその通り。
それならそうと最初から言ってくれれば良いのに。pHというのは溶液の中にいる「H+イオン」のエネルギーのこと。エネルギーが低い、というのは、安定だ、ということですからたくさんの「H+イオン」が居る。少ししか「H+イオン」が居ない場合はエネルギーが高くて不安定だ。こう考えるとpHが大きい方が「H+イオン」が少ない、というのも納得できますね。
pHが大きい液体とpHの小さい液体を「H+イオン」が自由の行き来できる膜を通して接触させれば「H+イオン」はより安定になろうとしてpHの大きい液から小さい液に向かって移動する。一緒に電荷移動が起こるので両方の液の間に電位差ができますが、エネルギー差とつり合って移動が止まったときの電位差からpH(正確には両液のpHの差)が分かる。なるほど、pHメータの原理(こちらの記事とその補足)とも直結しています。
なんだ、こっちの方が見通しが良いじゃないか。いっそのことpHはこのエネルギーから定義したら良いのに。などと思っていると、本当にそういう定義をしているところがありました。JIS(日本工業規格)による定義がそうなっているのです。
いえ、JIS規格が決めているのは pH の測定方法であって物理化学の理論における pH の位置づけではありません。(それじゃあ「物理化学の教科書」の規格になってしまいますよね。)でも、JISが規定する pH の測定法の中に「水素イオン濃度が○○のもののpHが××」だ、という記述はありませんから、水素イオン濃度の指数(にマイナスを付けたもの)とは無関係に pH が決められることになります。
なら JIS が決めている pH って何でしょうか?これがぶっちゃけた話、
pHメータで測った値がpHだ。
ということになっていて、水素イオン濃度とは独立にpHが定義されているのです。
水素イオン濃度とは無関係。代わりに決まった組成のpH標準液にたいしてpHが指定されていて、誤算の範囲内でそのpH値が出るものが正しいpHメータだ。そして正しいpHメータで計った値がpHだ、という立て付けになっているのです。これは「エネルギーに基づくpHの定義」に従った測定法だと言えるのではないでしょうか。
でも、どうせエネルギーに基づいてpHを決めるなら中性を0にして欲しいなあ。それにpHメータの測定値に基づいて決めるなら単位もVにした方が良いのに。まあ、こればっかりは無理な話ですよね。
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