デマを拡散しないように- 33 カリコ・ワクチン(片桐教授)
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カリコ・ワクチンの仕組み(承前)
前のブログ(「デマを拡散しないように- 32 ワクチンと免疫について」)でも述べたように、ファイザー、モデルナのmRNAワクチンはカリコ博士らにより開発されました。その病原体(ウイルス)の遺伝情報のRNAにより短期間で開発できる新しいタイプのワクチンです。ウイルスの部品の蛋白の一部の設計図のmRNAを油滴に閉じ込めて安定化したものです。逆転写酵素は含まれていないので、ウイルスのようにヒト遺伝子を書き換えてDNAを汚染しません。
カリコ・ワクチンの目的はmRNAによるヒト細胞の新型コロナへの疑似感染です。カリコ・ワクチンのmRNAは、ヒト細胞に潜り込み、ウイルスの部品の一部を作らせます。しかし、ワクチンには逆転写酵素はふくまれていないので、mRNAはヒト細胞のDNAに組み込まれてしまうことはありません。mRNAワクチンによりヒトDNAの遺伝子組み換えは起こりません。DNAを汚染することはありません。
一方、新型コロナウイルスに感染すると、ウイルスは逆転写酵素を使って積極的にヒトDNAの中に自分のRNA由来の遺伝情報をDNAに組み入れ、これを元にしてウイルスの部品を作成させて、増殖します。ウイルスは遺伝子組み換えを行ないます。HIV(AIDSの原因ウイルス)のカクテル療法の治療薬として逆転写酵素阻害剤(例えばAZT)を使うのは、このような逆転写酵素を阻害しても人間の生命活動への影響は最小限であり、ウイルスの増殖活動だけを選択的に抑えられるからです。
カリコ・ワクチンはこのような獲得免疫の細胞性免疫にウイルスを予習させるものです。ワクチンによる疑似感染細胞を攻撃することで、細胞性免疫はこのウイルスを予習し、本番の感染時に感染細胞を速やかに焼き殺し、排除できるようになります。これが、カリコ・ワクチンの「重症化予防」効果です。
ある意味、この細胞性免疫の働きは江戸時代の「破壊消火」に似ています。延焼を食い止めるために家屋を破壊するように,感染したヒト細胞を破壊しそれ以上のウイルスの蔓延(延焼)を食い止めます。
それに加え、カリコ・ワクチンでは「中和抗体」も産生します。これは望外の副次効果です。これにより「感染予防効果」もある程度期待できます。しかし、この感染予防効果は、普通は数ヶ月で消えてしまいます。インフルエンザの予防接種は毎年受けなければ感染予防になりません。
マスコミは新型コロナワクチンについて、この「感染予防効果」を大きく取り上げています。あたかも今回のワクチンの目的は感染予防であるかのように報道しています。局限対策よりも予防対策を重視する日本人的な扱い方です。
しかし、抗体産生は比較的短期間で終わってしまいます。有効期間は数ヶ月程度しかありません。一方、細胞性免疫の記憶は長持ちします。水疱瘡のように一生もつこともあります。今回の新型コロナウイルスのワクチンの体内の局限対策の有効期間は現時点でまだ分かりません。後臨床調査(臨床第Ⅳ相)の研究調査結果を待ちましょう。
このブログの内容を不用意に拡散しないように。必要なら必ず裏をとり、引用文献などを読んで自分で確認し、理解し、検証してから、自分の言葉として発信しましょう。他人のことばをそのまま鵜呑みにするのは極めて危険な行為です。
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