100%リサイクルってどういうこと(江頭教授)
| 固定リンク 投稿者: tut_staff
皆さん、「リサイクル率」とはどういう意味だと思いますか?
何かの製品がリサイクルされている。その製品を1個買ったとき、製品がリサイクル品である確率がリサイクル率
これが普通に思いつくリサイクル率の定義ではないでしょうか。
たとえば新規に作られた製品がすべて回収され、一度だけリサイクルされたとします。この場合、市場に出ているその製品は半分が新品、のこりの半分はリサイクル品となります。つまりリサイクル率は50%となります。
ではリサイクル率が90%というのはどんな状態でしょうか。市場に出ている製品のうち新品は10個に1個。それ以外の9個はリサイクル品なのですから新品は平均で9回リサイクルされることになりますね。
一般化すればリサイクル率がx%のとき、リサイクルされる回数は x/(100-x) となります。
さて、最近「日本コカ・コーラ、旗艦製品で100%リサイクルのペットボトル採用」という記事を見つけました。
先の式に x = 100% を代入すると…リサクルされる回数は無限回になってしまいます。そもそも、購入する製品が全部リサイクル品だとしたら新品が作られないということ。最初のリサイクルでは一体何をリサイクルしているのでしょうか?
いや、ちゃんと見てみましょう。この記事では「100%リサイクル」と言っているだけで「リサイクル率100%」とは言っていません。
本文を読むと「旗艦ブランドである(中略)全製品にリサイクルペット素材を100%使用したペットボトルを採用する。」と書いてあります。タイトルの100%とはこう言う意味だったのか。
「リサイクルペット素材」というのはペットボトルからリサイクルされたペット樹脂ですが、別に日本コカ・コーラの旗艦ブランドのボトルから作られている必要はない。旗艦ブランド以外のボトルや他社のボトルから作られていても良いのです。というか、それらの供給源がないと100%使用するために十分な「リサイクルペット素材」の供給量が得られなくなってしまう。これは先ほどのリサイクル率100%についての考察からわかると思います。
実はこの記事には「全商品のペットボトルをリサイクル樹脂90%、植物由来樹脂10%を使用したサステナブル素材に切り替える方針。」という記述もあります。先に示したリサイクル率90%に対応する状況で植物由来樹脂で作ったボトルを9回リサイクルするということになります。もっともガラス瓶のようにボトルをそのまま再利用するのではなくいったん樹脂にもどすことが想定されています。そのプロセスでのロスが大きいようなら、やっぱり他製品、他社製品のボトルがリサイクル樹脂の原料として必要になるでしょう。しかもこれは「2030年には」達成するという、少し先の目標値。やはりリサイクル社会の実現にはまだ時間が必要そうですね。
さて、この記事について。内容はともかくタイトルについては正直はいかがなものか、と私は思います。皆さんはいかがでしょうか。
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