« 「あなたの研究はDGsの目標5に貢献しますか」(江頭教授) | トップページ | サステイナブル工学プロジェクト演習」中間報告会(2021)(江頭教授) »

デマを拡散しないように- 35 アレルギー(片桐教授)

| 投稿者: tut_staff

 このブログの内容を不用意に拡散しないように。必要なら必ず裏をとり、引用文献などを読んで自分で確認し、理解し、検証してから、自分の言葉として発信しましょう。他人のことばをそのまま鵜呑みにするのは極めて危険な行為です。

 先のブログ(デマを拡散しないように- 34 ワクチンの副反応の機構)で副反応とアレルギー体質の関係について少し述べました。アレルギー体質の人は副反応を起こし易いと推測されます。ワクチン接種でも、アレルギーの有無を問診で聞かれます。筆者はアクロレインをハプテンとしたアレルギーとヨウ化メチルによる化学過敏症で苦しんだ経験を持ちます。問診でその旨を述べたところ、接種後の経過観察時間を通常の15分ではなく、30分にされました。そして、予想通り、少し強めの副反応を経験しました[http://blog.ac.eng.teu.ac.jp/blog/2021/06/post-ccf7f4.html] [http://blog.ac.eng.teu.ac.jp/blog/2021/07/post-3494c8.html]。

 今回はアレルギーをもう少し詳しく解説します。

Ⅰ型アレルギーとⅣ型アレルギー

 免疫系の暴走のひとつとして、アレルギーはよく知られています。花粉症などのアレルギーはⅠ型アレルギーとⅣ型アレルギーに大きく分類されます。Ⅰ型アレルギーは即時型と呼ばれ主にヒスタミンを情報伝達物質とする液性免疫によります。短期間で症状が現れます。

 Ⅳ型は遅延型と呼ばれ細胞性免疫によります。徐々に症状が現れ、なかなか収まりません。

 Ⅰ型アレルギーは抗ヒスタミン剤で、ある程度抑えられます。一方、Ⅳ型の有効な治療薬はまだありません。唯一有効なのはステロイド剤です。ステロイド剤は、細胞性免疫を抑制する時に有効です。そのため、重症の新型コロナ肺炎の細胞性免疫によるサイトカインストームを抑制する治療薬としてステロイド系のお薬を使います。しかし、まだ病原体の残存している時にステロイドを使うと、細胞性免疫にウイルスを見逃させてしまいます(「寛容」と呼ばれます。)。細胞性免疫の抑制により細胞へのウイルス感染拡大を許してしまいます。細胞性免疫を無理矢理にストップさせると免疫不全になります。ステロイド剤の使用の難しさはここにあります。肌の荒れた時に使うステロイド剤を、素人判断で水虫などに使うと、免疫系を抑えてしまい白癬菌の増殖を許し、取り返しのつかないことになります。

ここからは脱線です:

 私が会社員のころ、今からおおよそ30年前、iV型アレルギーの薬の開発をしておりました。私の分担は薬品合成でしたが、それに加えて破壊消火の主役である活性酸素を強制的に消去する分子構造の開発を検討していました。

 その当時、活性酸素の正体は薬学的にはヒドロキシルラジカル(HO・)と考えられていました。そのため、プロブコールのようなゴムの酸化防止剤の構造をもつお薬が用いられておりました。しかし、生体内で短寿命のヒドロキシラジカルがふよふよと漂って、作用するとは、ラジカル化学で学位を取った私には信じられませんでした。

Sick_hatsunetsu_woman_20211031145101

プロブコール

 

ある部分構造にこのdi-tert-Bu-phenol構造を導入したお薬のプロトタイプは、確かにネズミを使った羊赤血球iV型アレルギー病態モデルに有効でした。しかし、その抑制率は50%程度でしかも大量にdoseする必要がありました。

 ぜんそくで死亡した方の肺の剖検写真と、硝酸の事故で亡くなった方の剖検写真との類似性から、私は窒素系の小分子の関与を疑いました。当時は丁度バイアグラが医薬品として注目を集めていた時期であり、低分子の窒素酸化物の薬理が盛んに研究されていました。また免疫を活性化させる核内の因子としてNF-κBというものが知られていましたが、これがオゾン(O3)で活性化される、という論文もその頃に報告されました。ルイス構造的にオゾンに類似の窒素分子として、NO2ラジカルがあります。これは四日市喘息の原因物質と言われています。このNO2とHO・を同時に放出する化合物を「真の活性酸素種」と仮定し、その比較的安定な状態のものを効率よく分解する活性酸素消去部位構造を分子設計し、先の「ある部分」にdi-tert-Bu-phenol構造の代わりに取りつけたところ、先のアレルギー病態モデル試験での抑制率は100%となりました。[磯部、片桐、梅沢、後藤、小原、佐藤、新規なウラシル誘導体及びそれを有効成分とするアレルギー疾患治療薬、特開8-27121、平成8年1月.]

 この医薬品を開発候補品として前臨床にあげたところで、私は会社を退職し大学教員になりました。

 この薬は前臨床の犬を使った毒性試験を通らなかったそうです。これは、あまりにも完全に細胞性免疫を抑制してしまうために、無菌ネズミでは問題にならなかったのですが、雑菌の中にいる犬では細胞性の免疫機能の機能消失で、ウイルス性の疾患にかかり死んでしまったためだそうです。効きすぎる薬は毒になるということでしょう。

 このブログの内容を不用意に拡散しないように。必要なら必ず裏をとり、引用文献などを読んで自分で確認し、理解し、検証してから、自分の言葉として発信しましょう。他人のことばをそのまま鵜呑みにするのは極めて危険な行為です。

片桐 利真

 

« 「あなたの研究はDGsの目標5に貢献しますか」(江頭教授) | トップページ | サステイナブル工学プロジェクト演習」中間報告会(2021)(江頭教授) »

解説」カテゴリの記事