LPG(液化石油ガス)の代わりにLNG(液化天然ガス)が使えるか(江頭教授)
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家庭用のLPGはよくプロパンガスと呼ばれますが正式な名称は液化石油ガスた、という話はこちらの記事で紹介しました。その一方都市ガスは通常天然ガスが使われています。天然ガスの主成分はメタンガス。プロパンはC3H8、メタンはCH4。1分子内の炭素や水素の数が違うので酸化反応での発熱量はプロパンガスのほうがずっと大きくなります。重量基準なら大差は無いところですがガスは気体で供給されるのですから体積当たりの発熱量には1分子当たりの特徴がストレートに反映される。つまりLPGというかプロパンの方が発熱量が大きいのですね。このため調理器はLPG用の調理器と都市ガス用の調理器は互換性がありません。
これは不便だ。いっそLPGも都市ガスも同じガスを使えたら良いのに。そう考える人がいるかも知れません。天然ガスを液化したものはLNG ( Liquefied Natural Gas まんま液化天然ガスです)と呼ばれています。海外から天然ガスを輸入するとき、天然ガスはLNGの形で船で輸送されています。なら港についたLNG船からボンベに詰めて各家庭に配送すれば便利なのでは。
でも、これには大きな問題があるのです。
LPGとLNGはどちらもガスを液化することで密度を高めて保存を容易にする、という点では共通しています。しかし液化のための条件に大きな違いがあるのです。
LNGの保存には低温が、それもかなり極端な低温が必要条件となるのです。何しろメタンの沸点は零下161.6℃です。家庭用のボンベに冷却機能を付けるのはいくら何でも非現実的ですよね。
この説明に納得しない人もいるでしょう。それを言えばプロパンだって沸点は零下42℃。でも家庭用のLGガスのボンベに冷却機能など付いていません。沸点というのはあくまでも大気圧での沸点ですから加圧すれば常温でも液化する。だからメタンガスも加圧すればボンベに詰めることができるのではないでしょうか。
でもこのアイデアも実現不可能なのです。それも「必要な圧力が高すぎて安全性の問題がある」といったレベルではありません。実はメタンガスは常温ではどんなに圧力をかけても液化させることはできないのです。メタンガスを液化するには零下83℃以下に冷却する必要があり、この温度は臨界温度と呼ばれています。
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