van der Waals の状態方程式(江頭教授)
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こちらの記事では常温・高圧のメタンの挙動は理想気体の状態方程式からずれる、という話をしました。その上で、より実在のメタンに近い状態方程式として「van der Waals の状態方程式」による計算結果を紹介しました。今回はこの「van der Waals の状態方程式」について少し説明をしましょう。
まずはどんな状態方程式なのか、の説明から。状態方程式なのでP、V、T、n そしてR(それぞれ圧力、体積、絶対温度、物質量、ガス定数)の関係式で以下の様な形です。理想気体の状態方程式にはなかったa、bというパラメータが新たに加わっているのが特徴です。
この式の一つ目の特徴はV=nbとなるときPの値が無限大に発散すること。これが前回の記事で「どんなに高い圧力をかけても体積は一定値以下にはならない」と説明したところです。気体の体積はnb以下になることはない。つまりbは分子一個の体積(のようなもの)なのですね。
さて、二つ目の特徴は右辺の第2項目。この項は圧力からマイナスされています。圧力は分子が壁に当たるときの衝撃を平均したものですからこの項は分子の衝突がマイルドになる、という表現です。気体の塊から壁に分子が当たりに来るのですが、その力が弱まって数(頻度)も減ってしまう。力の減衰も頻度の減少もどちらも分子間の引力によるものですが、この引力は分子の密度(n/V)に比例している。力と頻度の両方に効くので密度の二乗になってるわけですね。
さて、この右辺第2項の効果は先に述べたbVほど分かり易くはありませんが、非常に興味深いものです。下図の下の方の三次元グラフは絶対温度Tと体積Vに対する圧力Pの変化を示したものですが、温度の高い条件では理想気体の状態方程式に似て体積が縮むにつれて単調に圧力が増加するものの、温度が低くなると「うねり」がでてくる、というか、体積が縮むと一旦圧力が減少する領域が現れるのです。
体積が縮むと圧力が減る、という系は不安定です。たとえばこの気体を二つのシリンジに詰め込んで接続したと考えましょう。片方のシリンジの圧力が少し高かった場合、もう一方にシリンジにガスが流れ込みます。普通の気体ならガスが入ってきた側のシリンジの圧力が増してバランスがとれる訳ですが、この系の場合は逆。入ってきた方が圧力が減少する。逆に出て行ったシリンジの圧力はどんどん高まるので流れが止まらなくなってしまい、二つの別の状態になってしまいます。
実はこの過程で現れる「二つの別の状態」が気相と液相に相当する。そう考えるとこの van der Waals の状態方程式は気体と液体の両方を表現することのできる優れた状態方程式だ、ということが分かるのです。
図は本学科で教科書として利用している「アトキンス物理化学」から。温度が低い領域で現れる「うねり」の部分は実際には上の図に示される水平の線で表されます。この線の領域では系は均一ではなく、左端の液体と右端の気体とが共存する状態になっています。
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