ボンベの容量いろいろ(江頭教授)
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このブログを読んでいるあなたが都市ガスの供給される地域に住んでいるならボンベというものにあまりなじみがないかも知れません。でも都市ガスのガス管がない地域に住んでいる人にはLPガスボンベは必需品ですよね。他にも病院で酸素ボンベが使われているところを見たことがある人もいるでしょう。
大学の、それも化学系の学科であればもっといろいろなボンベが使われています。ではそのボンベにはどれくらいのガスが入っているのでしょうか。
私が学生の頃にはボンベには大型の「7立米(りゅうべ)のボンベ」と小型の「1立米(りゅうべ)のボンベ」がある、と教わったものです。あ、「立米(りゅうべ)」はm3のこと(詳細はこちらの記事で紹介しています)。いくら大型と言っても7m3のボンベというのはでかすぎ(1m × 1m × 7mですもんね)。実際にはガスは150気圧程度に圧縮されていて体積も150分の1に縮んでいますから、だいたい46.7Lという計算になります。これは高さ約1.5m、半径25cm程度の円柱のボンベで47L型と呼ばれます。一方で「1立米(りゅうべ)のボンベ」は高さ約1m、半径15cmの10L型のボンベのことで、これに100気圧でガスを充填すれば(大気圧で)1m3のガスを詰めることができます。
ボンベは鉄製の肉厚な容器ですからかなりの重く、47L型は40kg以上の重さです。小ぶりな 10L型でも10kg以上。では、この中に詰まっているガスはどのくらいの重さなのでしょうか。
これは病院で使われる10Lの酸素ボンベです
まず一番軽い水素ガスから。分子量は2です。圧力と体積、そして温度が決まれば状態方程式から物質量(何molか)が、それに分子量をかけて質量が求められてます。常圧で7m3のガスは0℃なら 286mol ですから 572g となります。基準温度を25℃とするともう少し減って 313mol ですから 625g です。ガスの重さはボンベの重さにくらべてまさに桁違い。47L型の水素ボンベの重量はほとんどがボンベの重さなのですね。
今度は重い酸素ガス。分子量32。47L型ボンベに入っている酸素ガスの重さは0℃なら10kg、25℃基準なら 9.2kg です。47L型の酸素ボンベだと酸素ガスの重量が全体の重量の2割程度。やはりかなりがボンベの重さです。
ではもっと重い二酸化炭素はどうでしょう。分子量は44で同様に計算できるのですが、実は二酸化炭素は少し違います。二酸化炭素を入れるボンベにもいくつかの種類があるのですが、47L 型に近いボンベとしては、もう少し小型の 40L 型が用いられています。このボンベの充填量は 30kg で酸素ガスの3倍です。分子量は 1.37 倍でしかありません。そして圧力も150気圧よりも低い。(実は二酸化炭素のボンベは圧力が150気圧を越えると安全弁が開いてガスが放出する仕組みになっていて、そこまで圧力を上げることができないのです。)この場合、ボンベとガスの重さはかなり近くなります。
これは一体どうしたことでしょうか。理想気体の状態方程式を使った簡単な計算なのですが…。
まさに「理想気体の状態方程式」というところがポイント。実は加圧された二酸化炭素は理想気体の状態方程式に従わない。難しい言い方をしないで種明かしをしましょう。二酸化炭素は加圧されると液化してしまうのです。液体の場合、例えば水だと考えれば40Lに容器には40kgの水が入る訳ですから、二酸化炭素が30kg詰められる、というのも大して不思議ではありませんね。
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