LPG(液化石油ガス)の代わりにLNG(液化天然ガス)が使えるか その2 高圧編(江頭教授)
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先日の記事「LPG(液化石油ガス)の代わりにLNG(液化天然ガス)が使えるか」では室温では天然ガス(メタン)は液化しないのLNGにはならない。だからLPGにはかなわない。と書きました。
確かに液化しないならLNGとは呼べませんね。でも問題はボンベにどれくらい詰め込むことができるかです。液化しないなら思い切り高圧にガスを押し込んでしまえば良いのでは。液化はしなくても液体と同じくらいの密度でボンベに詰め込むことができれば良いしょう。
家庭用のLPGの主成分であるプロパンは大気圧では-42℃で液化。そのときの密度は0.493g/mLです。LPGボンベの中ではこれより高圧で温度も高いので多少密度は変化すると思いますが、まずはボンベに詰め込む密度の目標値を0.5g/mLとしましょう。
メタンを加圧して0.5g/mLの密度でボンベに詰める。そのときの圧力はどのくらいなのでしょうか。
理想気体の状態方程式から密度ρ は
ρ=Mn/V=MP/(RT)
と表されることが分かります。ここでP,V,Tはそれぞれ圧力、体積、温度、nは物質量、Mは分子量、そしてRは気体定数です。Pについてとくと
P =ρRT/M
です。これに M=16 g/mol、R=0.0821 L・atm/(mol・K)、室温20℃を想定してT=293.2K、それにρ=0.5g/mLを代入します。単位に注して結果は
P=752 atm
となりました。
750気圧。普通のボンベの5倍の圧力。これはいくら何でも大きすぎる。でもこの計算にはそれ以前の問題があるのです。
理想気体の状態方程式、そもそも「理想」と言っているくらいですから実在の気体とはちがう。この状態方程式は温度が高く、圧力が小さい、要するに密度の小さい状態でよく一致すると言われています。今回計算したのは室温ではありますが無理やりに圧力をかけて密度を高めた状態ですから、理想気体と実在気体の違いが際立つ条件です。
上の図には1molのCH4、つまり16gのメタンについて、体積と圧力の関係を示しています。目標とした密度0.5g/mLになるのは体積が32mLとなるライン。オレンジの理想気体の状態方程式から計算したp-V曲線は752気圧でこの曲線とクロスしています。
では、より現実に近い状態方程式ではどうでしょうか。van der Waalsの状態方程式で求めたp-V曲線を図に灰色の線で示しましたが、この曲線は密度0.5g/mLの線との交点がありません。
つまり、メタンをどんなに高い圧力をかけても体積は一定値以下にはならないのです。普通に考えてメタンの分子が互いにくっつくほどに密集したら理想気体として扱えないのはもちろん、圧力をかけても体積は変化しなくなるでしょう。
メタンの沸点(-182.5℃)における液体のメタンの密度は0.415g/mL。液体のメタンでは「分子が互いにくっつくほどに密集」しているはずですが、それでも今回の目標値よりも小さい密度なのです。やはり、どんなに圧力をかけてもLNGはLPGほどには密度が高くならないのですね。
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