「安全工学」の講義番外編 ボンベのおもいで(片桐教授)
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12月7日の江頭先生のブログ(http://blog.ac.eng.teu.ac.jp/blog/2021/12/post-74d8e9.html)で、ボンベの話しをしておられました。それに便乗して:
昔、学生時代に私のいた離れの化学実験室の建物にはエレベーターがありませんでした。正確に言うと、あったのですが、遠くて使えませんでした。
当時は安全意識も皆低く、ボンベ・キャリアも買ってもらえず、ストップトフローに使う窒素ボンベを「転がして」運んでいました。「転がして」というと寝かしてゴロゴロを想像するかもしれません、でも、そうではなく、ボンベの頭を片手で持って、ボンベの底の円周を利用してクルクルと回転させ運んでいました。倒しが甘いと回転させてもあまり距離をかせげず、倒しがキツイとボンベが重くて倒しそうになります。へたくそな挿絵を描いてみました。
だから,「遠くのエレベーターを使うくらいなら」と、1〜2階差ならボンベを抱えて階段を昇り降りしていました。あのころは若かったから、そんな無茶ができました。
『ボンベのおもいで(重いで〜)』
さて,ある日の朝、6時頃(だったかな?)、1階の実験室でのんびりと実験準備をしながらコーヒーをのんでいると、どこかから「キーン」とジェット機のような騒音が聞こえてきました。あわてて音の方へと駆けつけると、地下の廊下で後輩が腰を抜かしていました。
「ボンベが,ボンベが暴れて…」
地下実験室に飛び込むと、そこには倒れた47 Lの水素ボンベが轟音をたてながらクルクルと暴れ回っていました。後から聞いたところでは、一人でガスクロマトグラフの水素ボンベの交換をした後に、ボンベの頭のところの一次弁をあけたら,いきなりボンベが倒れ込んで暴れ出したとのことでした。
「トンボ(ボンベの一次弁を開け閉めするためのスパナ)はどこだ?」
「どこかに飛んでいきました」
先輩の私が助けに来たことで、かれは落ち着きを取り戻し、部屋の換気扇を回そうとしました
「アホかっ!、換気扇は危ない。まずボンベをしめろ!」
と私は部屋の中を這いずり回ってトンボを見つけ、ボンベの一次弁をしめました。
彼を部屋の外に逃がし、5階の事務と同じ建物の他の研究室にこの事故を知らせるように、そのときエレベーターは絶対に使わないように指示しました。
「5階まで走れ〜!」
水素ガスの爆発限界濃度は低く、わずか4%です。47 L×150気圧のボンベ内のどれだけの量の水素が漏れたかは分かりませんが、最大常圧で7,000 Lです。2~300 ㎥の部屋に均一にばらまかれているのなら2~3%の爆発限界以下です。しかし、水素は軽いので天井付近に高濃度で溜まっている恐れもあります。
「ココデ死ヌカモシレナイ」と思いながら、私は地下実験室に入り、ゆっくりと窓をあけて、換気を行ないました。幸いに爆発は免れました。
この事故の直接原因は、水素ボンベの逆ネジを彼は知らなかったこと。一人でボンベ交換を行なったことでした。水素ボンベは付け間違いを避けるために,酸素ボンベや窒素ボンベと異なり、ネジの切り方が逆です。左ネジ(左に回すと締まる)になっています。
https://www.an.shimadzu.co.jp/gc/support/faq/bombe1.htm
それを知らずに古い(ネジ山が一部なめっていた)レギュレーターを引っ掛けた状態で、はめ込みねじ込み、ネジを無理やり回してネジ山を噛ませてしまい(さすが少林寺拳法部、怪力ですね)、でもその状態ではそれ以上右回ししてもネジをしめれなかったので、しっかりネジしめできたと彼は判断して一次弁をあけたようです。この勘違いがこのインシデントの根本原因でした。
このボンベのネジの問題は関東と関西でも違うなど、混乱の原因になっているようです。
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