BS1スペシャル「コロナシフトでつくる日本の未来 デジタル」を観て(江頭教授)
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今回紹介するのはNHKのBS1で放送した番組
BS1スペシャル
「コロナシフトでつくる日本の未来 デジタル」
です。
落合陽一氏をキャスターに迎え、コロナ禍で明らかになった日本の課題を探る、というシリーズの1作目。本放送は2021年12月3日でしたが、私が見たのは12月19日の再放送(の録画)です。
「NHKの企画力はスゴイ!」とは先のブログで「魔改造の夜」を表した片桐教授のご感想ですが、残念ながらことこの番組について、私はNHKについて厳しい意見を言わざるを得ません。というか、この「BS1スペシャル」は一体誰に向けた番組なのか、少し考え込んでしまいました。
番組のなかで最初にあげられるトピックスは日本のコロナ対策のぐだぐだ振りについての批判。システムの電子化ができていれば巧く対応できたはずなのに、という問題提起の後にデンマークでの取材が続きます。
このデンマークでの事例の導入部、落合氏は「電子政府ランキング」を示し、「デンマークが1位、韓国が2位…日本はと言うと14位です」と述べて、これと対比して今度は「幸福度ランキング」を示し「ここでの日本のランキングは62位」とした後「二つのランキングを見比べると意外と同じ国がランクインしています」と述べます。実際、電子政府ランキングの1位、デンマークは幸福度ランキングでも2位と高い順位にあります。そして「デジタル化と幸福度はどう結びつくのか、デンマークで見てみたいと思います。」とするのです。
うーん、電子政府と幸福度、あまり相関があるとは思えません。電子化が遅れている政府より進んでいる政府の方が「他の条件が同じなら」進んでいる政府の方が良いと思います。でも「帝力なんぞ我にあらんや」と申しましょうか、人々の幸福度に政府ってそんなに大きな割合を占めることができるのでしょうか。(これが不幸度ランキングなら政府の影響できる範囲は膨大だと思いますが…。)
実際、少しネットを検索すれば「電子政府ランキング」2位の韓国が「幸福度ランキング」では62位であることが示されます。あれ?さっき番組で示された表では日本が62位では。でも2021年度版のデータでは日本は56位となっていました。このデータ、というかNHKのこの番組、どこまで信頼できるのだろうか。第10位もオーストリアがオーストラリアになっているし。
問題点を整理しましょう。まず電子政府と幸福度の相関するという考えについての疑問が一つ。さらに二つのランキングの中から適当に自分の主張に合うデータをピックアップしていること。それに加えてデータそのものが正確に引用されているかどうかも心許ないありさま。落合氏もこの展開の強引さは意識しているのでしょうか。「二つのランキングを見比べると意外と同じ国がランクインしています」と、思わず「意外」という言葉を挟んでいるのはそのせいかも知れません。
この番組、この後も主張している事と映像で紹介される事のあいだにあまり整合性がない、というか情報不足で飲み込み辛いことが続くのです。日本政府のIT活用に問題があると主張したいなら、その問題に焦点を当てて話をしてもらった方がよっぽど分かり易い。多分落合氏が学会の講演のような形でスライドショーで解説したほうがよほど信頼できて、分かり易い説明になるのではないでしょうか。
NHKのスタッフが頑張って取材をしてそれなりの時間をかけて作った番組だと思います。おそらく一般の視聴者に分かり易く問題の存在を印象づけたかったのでしょう。その意味では巧くいっているのかも知れません。でも,そのために強引な論理展開や雑なデータの引用をするのはどうなのでしょうか。
この番組がどのような人々をメインターゲットとしているかは分かりませんが、真面目に考えている人ほど懐疑的になるような、残念な内容になってしまっている。これが私の感想です。
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