吸光係数の単位のはなし(江頭教授)
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今回は前回の記事で紹介した学生実験の「ブリリアントブルー」による吸光係数を算出する課題、について補足しておきましょう。
分光光度計でブリリアントブルーの水溶液による光の吸収を測定するとき、水溶液の濃度が高いほど、水溶液の中を光りが通る長さ(光路長)が長いほど光の吸収が大きくなります。ここで言う「光の吸収」は単純に考えると「水溶液の中を光が通り抜ける間に吸収されてしまった光の割合」つまり吸収率(=1-透過率)のように思えるのですが、前回説明したようにLambert-Beerの法則が適用されて「透過率の対数にマイナスを付けたもの」(これを「吸光度」と呼びます)になります。
この吸光度が「水溶液の濃度と光路長の積」と比例する。その比例係数が吸光係数なのですが吸光度の次元は無い、というか次元は1なので吸光係数は「水溶液の濃度と光路長の積」の次元の「逆数」になるのです。水溶液の濃度としてモル濃度、mol/L を用い光路長を cm で表すとモル吸光係数(モル濃度で定義したので「モル」を頭に付けています)の単位はL・mol-1・cm-1となります。
では、この単位で表したモル吸光係数はどのくらいの大きさになるのでしょうか。
分光光度計の光路長は大抵1cmですから光路長の単位をcmにするのは分かり易いですね。その条件で水溶液の濃度をmol/Lとしている、ということは「1mol/L程度の溶液を1cmの幅の透明な容器に入れてのぞき込むと明るさが1/10位になる」ときにモル吸光係数は1L・mol-1・cm-1 程度になる、ということを意味しています。
色の付いた物質、例えば硫酸銅などを例にして考えてみましょう。硫酸銅の1molは159.6gですから、1Lの水に充分溶けるでしょう。この溶液は色が付いているものの1cm程度の厚さなら向こうが透けて見えるのでは。この場合でも硫酸銅のモル吸光係数はL・mol-1・cm-1 の単位で最大10程度なので吸収される波長の光は1%程度しか通らないのですね。
ではブリリアントブルーの場合はどうでしょうか?これは染料として用いられる物質ですから、1mol/Lの溶液で「向こうが透けて見える」ていどの発色では到底おさまりません。ほんの少し添加するだけで色が付く、ということがブリリアントブルーのメリットです。実際、学生実験で使用しているブリリアントブルーの溶液、これは見た目で「青い色がついているな」とわかると同時に「向こうが透けて見える」ていどの濃さなのですが、この溶液の濃度は数~十数μmol/Lの値なのです。
こう考えるとブリリアントブルーのモル吸光係数は「1µmol/L程度の溶液を1cmの幅の透明な容器に入れてのぞき込むと明るさが1/10位になる」単位、つまり106の意味のM(メガ)を付けた「ML・mol-1・cm-1 」という単位で表した方がよさそうです。実際、学生諸君が実験でもとめたブリリアントブルーのモル吸光係数は0.1ML・mol-1・cm-1 つまり100,000L・mol-1・cm-1 くらいの値になっています。これは硫酸銅の1万倍くらい。さすが染料ですね。
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