化石燃料はどのようにフェードアウトするのか(江頭教授)
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化石燃料はいつかは枯渇してしまうから、他のエネルギー源が必要だ。この考えはおそらく1970年代半ばの石油危機によって日本中に、いえ世界中に広まったものだと思います。当時考えられていた「他のエネルギー」は原子力で、短期的には核分裂、長期的には核融合でした。核融合が実用化されればエネルギー問題にはけりが付く。核融合は事実上無尽蔵のエネルギーだ。その様に当時は考えられていたのです。
その後、チェルノブイリの原子力発電所の事故(1986)の影響でしょうか、原子力は未来のエネルギーの座から滑り落ちてしまいました。その後、未来のエネルギーは空位の状態になってしまったのですが、石油をはじめとしたエネルギー資源の供給は安定していたため、世間の注目がエネルギー問題に集まることはなかったのだと思います。
その後、1990年代に入ってからでしょうか。温室効果ガスとしての二酸化炭素の問題が注目され始めました。再び、化石燃料からの脱却が必要だ、他のエネルギーが必要だ、という意識が高まってきました。ここで注目されたのは再生可能エネルギーで、太陽電池、風力発電、バイオマスなどがその代表です。
つまり現在では化石燃料を再生可能エネルギーに置き換えることが温室効果ガス問題の解決だ、という認識が広く共有された状況にあるわけです。では、その置き換えは具体的にはどのように進められるのでしょうか。
化石資源が枯渇がエネルギー源の主役交代だ、と考えられていた頃はこの点は特に問題だと考えられていなかったのだと思います。化石燃料の生産が減れば価格が高騰する。その一方で原子力のコストは技術の発展(とくに高速増殖炉の実用化)によって劇的に下落するだろう。エネルギーの価格差が逆転すれば自然と化石燃料から原子力エネルギーへの置き換えが進行するはずだ。市場原理にしたがっていれば良く、とくに国家や国連が介入する必要は無い。というか、国家はこの自然な交代を邪魔してはならない、程度の認識だったのです。
でも状況は変わりました。化石エネルギーの利用を温室効果ガス対策のためにフェードアウトしなければならない。しかし化石資源が枯渇している訳ではないのですから、その価格が自然に高騰することはありません。再生可能エネルギーのコストが化石燃料のコストが自然に下回るようになるとは考えられないのです。
では、どうやって技術の転換を起こすのか。従来の市場原理に任せても話が進まない、となれば国連、というか最終的には各国政府による人工的な介入が必要となるはずです。昨年度、グラスゴーで開かれたCOP26で合意された石炭火力発電の「段階的な削減」はこの人工的な介入への意思表示だといえるでしょう。
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