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2022年2月

2022.02.28

悲しみのリプリント請求。 Pray for Ukraina. Pray for all of us.(片桐教授)

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 今、我々は歴史の大きな動きの中にいます。

 リプリント請求(別刷請求)という研究者間の習わしがあります。研究論文が手に入らない場合、その著者にリプリント(論文の正式なコピー)の送付を「お願い」し、運が良ければ、その論文の別刷りが著者から送られてくるシステムです。多くの場合、論文の著作権は出版社に移譲されているので、著者は論文の刊行時にそのリプリントを数十〜100部購入し、それを請求された時に請求元に「無料で」送付する習わしです。沢山の請求があるということは、それだけ皆が自分のお仕事に注目していることを意味するので、請求されることは名誉です。著者は喜んで郵送料を負担して、リプリントを航空便で送ります。

 今から35年前、まだ私がポスドクだった頃(1989年)、ティミショアラ大学の若い研究者からリプリントの請求を受けました。当時私の出した論文は、指導教授の方針で、Chemistry Lettersという日本化学会の雑誌に投稿していました。でも,当時はその雑誌は世界的にはメジャーではなかったので、海外、特に東欧では手に入りにくく、しょっちゅう東欧からリプリント請求がありました。リプリント請求のPost cardの裏面に切り取り線があり、それを切り取り、Air Mailの封筒にのり付けし、論文を封筒に入れて、「封はしない状態」で郵便局に持っていくと、安い郵送料で簡単に発送できました。翌日発送するつもりで、Post cardを受けとった日の夕方に封書を用意しました。しかし、その夜のNHKニュースで燃えおちるティミショアラ大学が映っていました。ルーマニアのチャウセスク大統領(当時)による蛮行でした。それがその後のルーマニア革命の発端になり、最終的にはソ連の崩壊につながりました。

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2022.02.25

1945年にSDGsがあったら(江頭教授)

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 最近何かと話題のSDGs(Sustainable Development Goals)ですが、これはもともと国連の掲げる世界の解決すべき課題のリストです。15年を単位として行動計画をつくり、それぞれの課題をどこまで改善できたかを検証する。先の行動計画はMDGsと呼ばれていて、SDGsはその第2弾になる訳ですね。

 SDGsのスタートが2015年、MDGsのスタートは2000年ですからそれ以前にはこの「○○Gs」のシリーズはありません。でも、もし「○○Gs」があったら、と考えてみるのも面白いかも知れません。MDGsの一つ前は1985年スタート。その前は1970年スタート。同じように1955年と続くでしょうが、その前は1940年とはならないでしょう。

 なんでかって?国連自体の設立が1945年なので、最初の「○○Gs」もここからスタートするしかありませんよね。

 では1945年の「○○Gs」の中身はどんなものでしょう?

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2022.02.24

今日で締め切り「研究室配属の希望調査」(江頭教授)

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 大学教育のメインはやはり卒業研究でしょう。授業や演習、実験などもありますがこれは高校までの授業にもあったもの。それに比べて全員必修で個別のテーマについてオリジナルな研究を進める、という卒業研究は明らかに別格です。研究内容もいろいろですが、それ以前に研究を行う場所、つまり所属する研究室もいろいろです。

 研究室配属は学生さん達の希望調査をベースに行います。昔だったら希望調査票を事務に提出して、という形になったでしょうか、いまは学生諸君はWEBで希望を提出、教員側にはリアルタイムで希望調査の状態を把握できるというシステムになっています。

 さて、学生の皆さんはどの研究室を選ぶのか。まずは情報を、ということで「研究室配属に関する説明会」を開いて説明の場を設けています。でも、各研究室10分程度の説明では情報不足、説明会のあとで各研究室を訪問して直接話を聞く、研究室を見学する、という学生さん達もいます。

 私の研究室にも訪問してくれる学生さんが何組か。特にルールは決まっていませんから、個別に来る人、友達とグループで来る人など、いろいろ。でも予めメールでアポイントを取る、というのは共通していました。卒論発表会の直前は結構忙しかったのでこの暗黙のルール(?)はありがたかったですね。

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2022.02.23

「教育力強化委員会」のこと(江頭教授)

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 本学ではより良い授業が行われるように一人一人の教員の授業を複数の教員が参観し、その評価を確認し合う授業点検という制度があります。この授業点検についてはこのブログでも何回か触れています(その1その2その3その4 )。昨年度は対面授業が制限されていたこともあって一時中断されていましたが、今年度から再開されました。

 さて、今回ご紹介するのはこの授業点検のフォローアップについて。私自身も以前授業点検の対象となったとき、後になって学部長からの講評を頂いた記憶があります。(点検される授業の直後に行われる検討会とは別です。)じつはこの「学部長からの講評」の前段階として授業点検の結果を学長に報告する会議があって、それがこの「教育力強化委員会」なのです。

 教務部長が司会で、各学部の学部長がそれぞれの学部で実施した授業点検の結果を細かく説明してゆきます。それぞれの授業の特徴の説明や高評価・低評価の理由や背景など。それに学長自らが詳細の確認や方向性の指示などを出してゆきます。大学の「偉い人たち」の会議という感じで、なんか凄いなあ。

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2022.02.22

気候変動だけが世界の問題ではない(江頭教授)

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 昨日の記事につづいて、もう少し「気候変動問題の解決」について考えて見たいと思います。前回は「気候変動によって何人人が死ぬか」という問の立て方をしたのですが、このような問いかけは不充分だ、と感じた方も多いのではないでしょうか。なぜなら「気候変動によって人が死ぬ」こと以外にも「気候変動への対策によって人が死ぬ」こともあり得るからです。

 前回紹介したドイツの活動家のような人が、高速道路でのデモでは収まらずにもっと大きな活動をしたらどうなるのでしょうか。民主的なプロセスでは気候変動対策は間に合わなくなる。もっと強力な手段が必要だ。そう考えて大規模なテロによって世界中の石炭関連のインフラを破壊したとしたらどうなるのでしょうか。もちろんこれもやはり極論で、前回紹介したニュースの活動家達はこのようなテロリストではないと思います。それに、世界の石炭関連のインフラを一気に破壊する技術など想像も付きません。とはいえ、これが可能なら気候問題は大きく解決に向かって動き出します。

 ではそのとき日本はどうなるのでしょうか。石炭に頼っている分、約3割の電力を失えば工業生産はおろか市民の一般生活への影響も計り知れません。冬の寒冷地での暖房はともかく、夏の酷暑で冷房が自由に使えないとなれば、その環境に耐えられない人もいるでしょう。病院の機能も保持できないとすれば死に至る患者も一人や二人ではないはずです。夏の酷暑は気候変動の影響かも知れませんが、このテロによって気候問題が解決に向かったとしてもその効果がはっきりするのは数十年後。このような極端な気候対策は悲劇しか生み出さないでしょう。

 もちろん、こんな非現実的な気候変動対策を考えても意味はない。そう言うこともできますが、この思考実験だけで気候変動への対策が常に人類にとって良いことだとは限らない、「気候変動への対策によって人が死ぬ」こともあり得る、ということがわかります。

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2022.02.21

「気候変動問題の解決」とは(江頭教授)

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 NHKのBS1では海外のニュースが定期的に放送されていて、私も時間があるときは見るようにしています。2月16日の放送されたドイツ「ZDF」のニュースでは過激な環境保護活動が物議を醸している、というニュースが。高速道路の出口に座り込み、自らの手を接着剤で路面のアスファルトに貼り付けることで「食料品を無駄にしない法律の制定」を求めるのだとか。うーん、そこってそんなに重要なんでしょうか。

 おそらく本人達は至って真面目、本気で重視しているのでしょう。なんでも「自らを気候変動問題を解決できる最後の世代」と位置づけているそうです。というわけで、今回は「気候変動問題の解決」について考えてみたいと思います。

 まず、人間の活動によって、少なくとも70億人から100億人になろうとする膨大な人間の活動によって気候が全く影響を受けない、と考えることには無理があると思います。でも、影響はあっても小さい、あるいは良い影響と悪い影響と半々だ、などの議論が予想されます。となれば「気候変動」の大きさや善し悪しの基準として、「気候変動」の何が問題なのかという議論が必要でしょう。

 一番極端なのは「人類の滅亡」が問題なのだ、という立場でしょう。もっと言えば70億を超える人間がすべて死滅してしまうこと。気候変動に関する予測でこのような危険性を指摘している研究は、少なくとも多くの研究者によってコンセンサスを得てはいないのが現状でしょう。そういう意味では気候変動の問題はすでに解決済み、というかそもそも気候変動は(この立場では)大した問題ではない。普通に粛々と対応してゆけば良い、ということです。

 では、もう一つの極端なケースとして「誰一人犠牲にしない」という目標はどうでしょうか。これは、気候変動によって死ぬ人が一人でもいれば問題だ、と言い換えることもできるでしょう。

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2022.02.18

100段階評価? 試験の点と成績評価(江頭教授)

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 我々応用化学科の卒論発表会も終わり、これから本格的な春休み。でも教員である私達にはまだいろいろな仕事があります。その一つが成績評価。一つ一つの授業の成績評価を集めて誰が何単位取れたかを確認。卒業式の前に卒業できるかどうか、新学期が始まるまでに進級できるかどうか、の判断をする必要があるのです。

 さて、この成績ですが、昔は「甲乙丙丁」と四段階の評価だったとか。私が大学生だったときは「ABCD」の四段階評価で、「D」通称「ドラ」は不合格を意味していました。「優良可不可」も最後の「不可」がひとまとまりなので四段階ですが、最近は「秀」を加えて五段階評価の場合も。本学もこのタイプの五段階評価ですが、通知されるときの表記は「SABCD」となっています。実は「S」の表記には「SA」と書いてあることもあるので、おそらく「Super A」なのでしょう。

 このブログを読んでいるあなたが高校生なら評価は「5,4,3,2,1」の五段階ではないでしょうか。私の頃はそうだった、って少し、いやかなり前のことですが、でも「オール5」などという表現が今も活きているところをみると今でも使われている様ですね。とはいえ高校の「1」は「不可」という意味ではないだろう、と思いますが果たしてどうなのでしょうか。

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2022.02.17

サステイナブル工学の目指すもの(江頭教授)

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 サステイナブル社会を意識してつくられた本学の工学部では、2年生向けに「サステイナブル工学基礎」として、サステイナブル工学に関する最初の専門科目が行われます。その中でサステイナブル工学と化学の関係について講義を担当する時間をもらいましたので、私なりにサステイナブル工学の目標について考えています。

 サステイナブル工学は現在の社会の良いところを保ちつづけることを目標としています。

 産業革命の結果として形成された現代の社会は成長することを前提とした社会でした。しかし成長することを前提とした社会はサステイナブルではなく、このままではやがて行き詰まり滅びてしまいます。以前は科学の進歩が成長の維持を可能にすると期待されていましたが、「成長の限界」では科学技術の進歩を考慮しても継続的な成長は不可能であると考えられるようになってきました。われわれの社会は成長(=量的増大)を野放図に目指すことから卒業し、発展(=質的充実)を目標とすることでサステイナブルな状態に移行する必要があるのです。私はそのための工学がサステイナブル工学だと思います。

 ここで、まず明確にすべきなのはサステイナブル工学が目指す社会は産業革命以前の社会とは、一面では類似しているとしても、まったく別の社会であるという点です。

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2022.02.16

卒業論文発表会終了 (江頭教授)

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 本学応用化学科の第一期生の卒業論文発表会、無事、2022年2月15日に終了しました。

 今回はあいにく新型コロナウイルス感染症が広がっている状況での開催となったので、もしかしたら感染者や体調不良の人、そうでなくとも濃厚接触者になってしまう学生がいるかも知れない。卒業論文発表会は大学生生活の一大イベント、絶対出席の最優先事項なので無理をして発表しようとする人がいないように、別途発表の機会があることの周知徹底に努めて警戒していたのですが、それについては杞憂でしたね。

 新型コロナウイルス感染症が現れる以前の卒論発表会でも、この時期にインフルエンザにかかってしまった学生さんがいて個別の審査会を開いたこともありました。今回は運が良かったと言うべきでしょうか。

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2022.02.15

2021年度の卒業研究審査会(江頭教授)

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 先日の記事にも書いたように2月14日(月)と本日2月15日(火)に応用化学科の「卒業研究審査会」を行っています。

 思い出すのは昨年度のこと。この審査会は金曜日と土曜日に実施されたのですが、この土曜日というのがまずかったのか本学のキャンパスで実施される大規模な試験と重なってしまいました。キャンパスの大きな教室はほとんど使われていて我々応用化学科が発表会に使うことができたのはキャンパスの反対側にある教室。これが結構遠くて、自分達の研究室との行き来には時間がかかったのです。

 今回は土曜日を過ぎて月曜日と火曜日での実施となったので部屋にも余裕が。応用化学科のある片柳研究棟という建物の大きな教室を使って発表会を行うことができました。別に自分の研究室と行き来する必要はないのですが、それでも移動距離が短いのは何か安心です。

 一方で安心できなかったのは雪のこと。2月13日の夕方頃からでしょうか。関東地方では急に「大雪に注意」というニュースが流れはじめましたが、こんなギリギリに警告されても対応できません。うーん、実際に大雪になったらどうしよう。

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2022.02.14

卒業論文発表会(江頭教授)

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 我々応用化学科の卒業論文発表会は本日(2022年2月14日)から2日間で開催。実は本学科が開設してから卒業論文発表会は今回で4回目。今年発表する学生諸君は4期生ということになります。昨年度、第3回の卒論発表会では「えっ、まだ3回目なの、と意外に思うほどに大学のイベントもルーチン化してきた」と書いたのですが、4年目の今回は返っていつもとの違いが気になる様になりました。

 今年の発表会は月曜日。しかもその前の金曜日が休日で発表会直前が三連休になっています。今まで私の研究室では発表の前日のぎりぎりまで学生諸君と内容を詰めるのですが、今回はそうも行きませんでした。

 本学科の発表会では発表者の交代を迅速にするために一つのPCにプレゼンテーション用のファイルを集めています。今年度もそれは同じなのですが、例年発表前の休み時間に各自USBメモリを持ち寄ってノートPCにファイルを移していたものが、今回は事前にネットに提出する形式になったのです。(おそらく感染症対策としてプレゼンテーション用のノートPCに不特定多数が触らない運用のためでしょう。)ネットへのアップロードの刻限が土曜日の18時となっていました。そこまでで少なくともスライドの内容は決まってしまう。なので、あとは発表練習を頑張ろう、ということに。

 例年、発表前日は慌ただしく過ごすのですが、今年は少し静かな日曜日が発表の前日となりました。

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2022.02.11

雪の八王子(江頭教授)

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 東京工科大学に工学部が設置されたのは2015年。当然、われわれ応用化学科の設置も同じ年となります。私を含めて応用化学の多くの教員はその際に外部から本学にうつってきました。私自身も学科の開設の1年前、2014年に本学に着任しています。

 えっ、雪と何の関係があるかって?実は、この2014年には大雪が降ったのです。

 2014年の2月、こちらに引っ越すために家を探そうと思って東京に来たその土曜日に大雪が降ってしまいました。おかげで、その週末の家探しには難儀した覚えがあります。今住んでいる家もそのとき内覧にきたのですが、玄関のところで尻餅を、その日二度目の尻餅をついてしまったのでした。

 帰りに乗った横浜線も時々停止をくり返して八王子みなみ野から八王子駅まで、たった2駅の移動に30分ほどかかった記憶が。そのあと八王子から中央線に乗ったのですがこれもなかなか動かない。

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2022.02.10

カーボンオフセットをお金で買いましょう(江頭教授)

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 前回の記事でマイケルサンデル教授の著書「それをお金で買いますか 市場主義の限界」を紹介しました。思いっきり要約すると

なんでも金で解決できると思うなよ!

という内容(いや、違う!)で、思わず「これはダメでしょう」というセリフが口をついて出るような実例がたくさんでてくるのですが、一つどうしてもコメントしたい事例があって今回の記事を書いています。

 「カーボンオフセット」は別にお金で買っても良いのでは?

 「それをお金で買いますか 市場主義の限界」の第2章「インセンティブ」の中にはそのものずばり「カーボンオフセット」というセクションがあります。「カーボンオフセット」とはこの章の中で「地球温暖化への個人的な加担を帳消しにするために、お金を払っては如何でしょう」と、端的に表現されています。たとえば航空機のニューヨーク・ロンドン往復便を利用した人が16.73ドルを払って内モンゴルの風力発電所に寄付をすることで発生した二酸化炭素を帳消しにする、そういう取引のことです。

 さて、「カーボンオフセット」に対するサンデル教授の意義申し立ては二つの論点があると思います。

 一つ目は「カーボンオフセット」が温室効果ガスの削減に対して逆効果となる可能性。「カーボンオフセット」の申し出があることで、温暖化に気兼ねせずに「ニューヨーク・ロンドン往復の旅」ができる様になるとすれば、本当は不要だった旅行もどんどん増えるのではないか。もちろん、カーボンオフセットが正しく行われていれば旅行が増えるほどオフセットされるカーボンが増えるのでトータルでの温室効果ガスの排出量は減るだろう。でも、気軽に旅行に行く人たちの習慣はそのまま温存されてしまうのではないか。

 まずはこの一つ目の論点について、私の考えを述べておきましょう。「カーボンオフセット」が温室効果ガスの削減に対して逆効果となるかどうかは制度設計と制度の実装の問題だと思います。「カーボン」というか二酸化炭素の排出量を正しく算定できるか。そして、それにつり合う削減量も正しく算定できるのか(こちらはもっと難しい)。そして排出量と削減量の公正なやり取りを保証できるのか。これは非常に難しい問題で、私自身どちらかといえばその現実性に懐疑的です。でも、これはいろいろな技術や制度の問題であって、少なくとも倫理的な問題ではないと思います。


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2022.02.09

書評 マイケル・サンデル著「それをお金で買いますか 市場主義の限界」(江頭教授)

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 マイケル・サンデル教授の著作、というか番組についてのこのブログでも何回か触れてきました(こちらとかこちらこちら)。サンデル教授はハーバード大学の教授で哲学者。倫理学についての講義が「サンデルの白熱教室」としてNHKでも放映されて日本でも有名になった人です。2010年くらいのことでしょうか。

 さて、今回紹介するのは

マイケル・サンデル著 鬼澤 忍訳「それをお金で買いますか 市場主義の限界」早川書房 (2012)

で、私は電子書籍版を読みました。

 「市場主義の限界」というサブタイトルから「何でもかんでも市場に任せれば良い」という行き過ぎた市場至上主義に対する反論であることがわかりますが、メインタイトルの「それをお金で買いますか」の方がこの本の雰囲気をよく表しています。この本は難しい理屈(がないとは言いませんが)よりも分かり易い、といいうかえげつない「市場主義」の実例がこれでもかという程でてくるのです。

 例えば「ダラスでは、二年生が本を一冊読むたびに二ドルをもらえる。現金を受け取るには、本を読んだことを証明するため、コンピューターを使ったテストを受けなければならない」といった、学校が学生に賄賂、じゃなかった、金銭的インセンティブを与える例。

 あるいは「額(あるいは体のどこかほかの部分)のスペースを広告用に貸し出す: 七 七 七 ドル。」という消える入れ墨で人の額に広告を入れさせる試み。「親からもらった大事な体を!」と反射的に思いますが、実際にこの申し出に応じる人がいたとか。

 もっとも、この本は2012年の出版でここに記されているのは10年以上まえのお話し。アメリカの経済がイケイケだったころの事例が中心ですからいまは少し雰囲気が変わっているのかも知れません。

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2022.02.08

van der Waalsの状態方程式とvan der Waals 力(江頭教授)

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 化学を勉強すれば必ず「van der Waals (ファン デル ワールス)」という名前を聞くはずです。van der Waalsさんはオランダの化学者、というか物理学者ですかね。フルネームは Johannes Diderik van der Waals (ヨハネス・ディーデリク・ファン・デル・ワールス)1837年生まれで1923年に亡くなっているそうです。(来年で没後100年なんですね。)

 この人の業績はこのブログでも「van der Waals の状態方程式」という記事で紹介しています。「分子に体積があること」と「分子間に引力が働くこと」を考慮して理想気体の状態方程式を修正し、気体と液体を統一的に説明できる状態方程式を作り出した。これが van der Waals の状態方程式なのです。というか、おそらく話が逆で気体と液体を統一的に説明する理論を作ろうとして、その原因を考える中で「分子に体積があること」と「分子間に引力が働くこと」に行き着いたのでしょう。

 分子に体積がない、という理想気体の状態方程式の前提をそのままにしていると「液体の体積は圧力を掛ければいくらでも小さくなる」ことになり、気体との差が出ませんよね。また分子が凝集して液体になるためには分子間に引力が働くことが必要だ、というのもうなずける話です。van der Waals の状態方程式を見てしまった後では当たり前すぎる様にもみえますが、このことに最初に気が付いたとうのはやはり凄い人だと思います。

 とはいえ化学の分野でvan der Waalsといえば「van der Waals力」の方が有名ではないでしょうか。「分子間に引力が働くこと」と書きましたが、この引力がそのまま「van der Waals力」と呼ばれる様になりました。

 この「van der Waals力」というのは少し変わった言葉で「重力」や「静電気力」のように発生する原理に基づいた名前ではなく、気体の性質を考える上で「こんな力が働いているに違いない」という理論からでてきた名称です。「van der Waals力」の物理的な実態は何か、という問題が解決されるのはずっと後のことになります。



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2022.02.07

入学試験(A日程)がスタートします(江頭教授)

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 本学の入学試験には複数のタイプがあるのですが、その中の一般選抜 A日程が行われます。2月7日の月曜日からスタートし10日の木曜日まで。日にちとしては4日間ですが、必ずしもその全てを受験する必要はありません。受験生諸君は、このなかから1日を選んで受験することも、4日間すべてを受験することも可能です。

 この「一般選抜 A日程」についてはこのページに以下の様なポイントが紹介されています。

  • 1試験日の受験で複数の学部・学科・専攻が併願できます。
  • 同一日・同一グループ内の併願は追加の入学検定料は必要ありません。
  • 試験日は最大4日間まで選択できます(試験日自由選択制)。
  • 全国13会場で試験を実施します。
  • 入学検定料優遇制度(併願割)があります

 さて、一般選抜 A日程の試験は2月10日で終了しますが、本学には大学入学共通テスト利用試験、そして、一般入試B日程といった受験の機会が準備さています。

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2022.02.04

大学院修士の最終審査会、開催中(江頭教授)

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 昨日(2022年2月3日)と今日(同2月4日)の二日間に渡って東京工科大学工学部、じゃなかったサステイナブル工学専攻(工学部に対応します)の修士二年生の最終審査会が行われています。このブログを読んでいるあなたが高校生なら、大学のその先、大学院については漠然としたイメージしかないかも知れませんが、工学系では大学院に進むひともかなり多い。で、その大学院は修士課程と博士課程に分かれていて通常修士が2年間、博士が3年間となっています。

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2022.02.03

「夏休みの宿題」とバックキャスティング(江頭教授)

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 先日の記事では応用化学科の「卒業論文の提出日」のお話しを紹介しました。そのなかで

実際の卒論提出はやはり厳格なもので、期限通りに提出しないと受け取ってもらえないことになっています。

と書いたのですが、泣いても笑ってもこれが締め切り、というのものは他にもいろいろありますよね。

 締め切りを守らせるために作家が缶詰にされている、とか漫画家が仕事場から逃げ出して担当編集者が追っかけるとか。そんな特別な人たちではなくても普通のひとでも学生時代に経験するのがこの「卒業論文の提出」の締め切りなのですが、締め切りというものは他にもいろいろありますね。課題やレポートの締め切り、夏休みの宿題とか。あと受験勉強の締め切りは試験当日でしょう。定期試験を含んだ試験全般(抜き打ち試験は除きますが)も試験勉強の締め切りと言えるのでは。

 さて、いろいろな締め切りに対しては大きく分けて二つの立場があると思います。夏休みの宿題を「休みの終わりに仕上げる派」と「毎日少しずつ派」です。一般に後者の「毎日少しずつ派」が良いとされています。

 一般には文句なしにその通り。でも(私の経験では)本当に夏休みの宿題が問題になるのは(不思議なことですが)「すでに夏休みの終わりが数日後に近づいている」場合がほとんどです。

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2022.02.02

有無を言わせぬ新技術(江頭教授)

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 こちらの記事で「無公害で安価な無尽蔵のエネルギー源」が開発されれば「カーボンニュートラル」な社会が簡単に実現する、ということを書きました。ややふざけた調子の文章なので何を無責任な、と思われた方も居るかと思います。今回は同様の内容について少し真面目に書き直しておきたいと思います。

 まず「無公害で安価な無尽蔵のエネルギー源」が発明される、という話。これには前例、は当然無いわけですが、よく似た例はあるのです。もったい付けずに言えば「石炭から石油へ」のエネルギー転換です。もちろん、石油は「無公害」でも「無尽蔵」でもありません。でも実際に石炭から石油への転換が起こった時期の感覚はどうだったのでしょうか。石炭と比較すれば石油はクリーンで使いやすいエネルギーに見えたことでしょう。そして1960年ごろには現実に「安価」なエネルギー源となったのです。

 「中東で大規模な油田が見つかった」ということをイノベーションと呼ぶべきかどうかは意見の分かれるところかも知れません。でも、その石油を全世界に供給するネットワークを作り上げたこと、それによって安価に石油を供給できる体系を技術的にも経済的にも築き上げたことはイノベーションという言葉に相応しいことだと思います。

 そういう意味で「石炭から石油へ」の転換は石油を安価に供給する「有無を言わせぬ新技術」によって実現したものだと言えるでしょう。このように、社会で主流となるエネルギー源が転換する場合には「有無を言わせぬ新技術」が出現して新しいエネルギーの方がメリットのある状況が実現することが、少なくとも今までは、唯一のパターンだったと言えるのではないでしょうか。つまり、社会は新技術の登場によって変化するものなのです。

 では、今回の「2050年までにカーボンニュートラル」という目標を達成させる「有無を言わせぬ新技術」は存在するのでしょうか。

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2022.02.01

卒業論文提出日(2021年度)(江頭教授)

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 応用化学科の四年生はこの春卒業の予定。いま卒業研究の仕上げにかかっていますが、今日と明日(1日,2日)は卒業論文の提出日となっています。

 卒業論文の提出というのは大学の中では結構なビッグイベントです。提出しなければほぼ自動的に留年決定なのですから、普通のレポートの様に期日までにポストに入れる、という訳にはいきません。場所と時間を決めて担当の教員に提出することになります。内容をチェックして規定を満たさないものは却下。受け取ってもらえた場合は「受領証」に判をもらいます。この受領証は卒論を提出した大切な証拠書類ですから、卒業証書をもらうまで大切に保管することになります。

 卒論の提出が間に合わない!というシーン、昔はドラマや漫画で見たような気がしますが今はどうなのでしょうか。実際の卒論提出はやはり厳格なもので、期限通りに提出しないと受け取ってもらえないことになっています。提出する論文は本編とそのコピー2部。全部で3部を提出します。印刷する時間もそれなりに必要ですから余裕をもって準備するべきでしょう。

 応用化学科の提出日は今日(1日)なのですが、明日は一応の予備日。何かの事情で提出できなかった人向けの時間です。この場合は理由書を作成、指導教官が確認して押印することが必要条件です。

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