書評 マイケル・サンデル著「それをお金で買いますか 市場主義の限界」(江頭教授)
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マイケル・サンデル教授の著作、というか番組についてのこのブログでも何回か触れてきました(こちらとかこちらとこちら)。サンデル教授はハーバード大学の教授で哲学者。倫理学についての講義が「サンデルの白熱教室」としてNHKでも放映されて日本でも有名になった人です。2010年くらいのことでしょうか。
さて、今回紹介するのは
マイケル・サンデル著 鬼澤 忍訳「それをお金で買いますか 市場主義の限界」早川書房 (2012)
で、私は電子書籍版を読みました。
「市場主義の限界」というサブタイトルから「何でもかんでも市場に任せれば良い」という行き過ぎた市場至上主義に対する反論であることがわかりますが、メインタイトルの「それをお金で買いますか」の方がこの本の雰囲気をよく表しています。この本は難しい理屈(がないとは言いませんが)よりも分かり易い、といいうかえげつない「市場主義」の実例がこれでもかという程でてくるのです。
例えば「ダラスでは、二年生が本を一冊読むたびに二ドルをもらえる。現金を受け取るには、本を読んだことを証明するため、コンピューターを使ったテストを受けなければならない」といった、学校が学生に賄賂、じゃなかった、金銭的インセンティブを与える例。
あるいは「額(あるいは体のどこかほかの部分)のスペースを広告用に貸し出す: 七 七 七 ドル。」という消える入れ墨で人の額に広告を入れさせる試み。「親からもらった大事な体を!」と反射的に思いますが、実際にこの申し出に応じる人がいたとか。
もっとも、この本は2012年の出版でここに記されているのは10年以上まえのお話し。アメリカの経済がイケイケだったころの事例が中心ですからいまは少し雰囲気が変わっているのかも知れません。
さて、この本を読んで私が思ったことを率直に述べるとすれば、
やっぱりアメリカって自由の国なんだなあ
ということです。「いくら何でもそれは無しでしょう」と思うようなアイデアでも真剣にそれをビジネス化(最近はやりの言葉で言えば社会実装ですね)しようとする人がいるのです。おかげでサンデル先生は「それをお金で買いますか」という事例をたくさん集めることができています。
これは「サンデル先生、本が書けて良かったですね。」というレベルに留まらず、アメリカという社会がイノベーションに満ちていることと表裏一体なのだと思います。
日本もアメリカ並みのイノベーションを、と考えるなら「それをお金で買いますか」と思わず問いたくなるようなアイデアについてもトライしてみるか、最低でも退ける前に真剣に検討することが必要になるでしょう。本書は市場のメリットを認めつつ、その限界、つまり「お金で買えないもの」は何かを問うことでその検討の一端を担っているのですね。
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