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van der Waalsの状態方程式とvan der Waals 力(江頭教授)

| 投稿者: tut_staff

 化学を勉強すれば必ず「van der Waals (ファン デル ワールス)」という名前を聞くはずです。van der Waalsさんはオランダの化学者、というか物理学者ですかね。フルネームは Johannes Diderik van der Waals (ヨハネス・ディーデリク・ファン・デル・ワールス)1837年生まれで1923年に亡くなっているそうです。(来年で没後100年なんですね。)

 この人の業績はこのブログでも「van der Waals の状態方程式」という記事で紹介しています。「分子に体積があること」と「分子間に引力が働くこと」を考慮して理想気体の状態方程式を修正し、気体と液体を統一的に説明できる状態方程式を作り出した。これが van der Waals の状態方程式なのです。というか、おそらく話が逆で気体と液体を統一的に説明する理論を作ろうとして、その原因を考える中で「分子に体積があること」と「分子間に引力が働くこと」に行き着いたのでしょう。

 分子に体積がない、という理想気体の状態方程式の前提をそのままにしていると「液体の体積は圧力を掛ければいくらでも小さくなる」ことになり、気体との差が出ませんよね。また分子が凝集して液体になるためには分子間に引力が働くことが必要だ、というのもうなずける話です。van der Waals の状態方程式を見てしまった後では当たり前すぎる様にもみえますが、このことに最初に気が付いたとうのはやはり凄い人だと思います。

 とはいえ化学の分野でvan der Waalsといえば「van der Waals力」の方が有名ではないでしょうか。「分子間に引力が働くこと」と書きましたが、この引力がそのまま「van der Waals力」と呼ばれる様になりました。

 この「van der Waals力」というのは少し変わった言葉で「重力」や「静電気力」のように発生する原理に基づいた名前ではなく、気体の性質を考える上で「こんな力が働いているに違いない」という理論からでてきた名称です。「van der Waals力」の物理的な実態は何か、という問題が解決されるのはずっと後のことになります。



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 さて、化学にでてくる van der Waals と名前の付くものの有名どころがもう一つ。「van der Waals半径」がそれです。いままでの話の流れで「分子に体積があること」から、分子の体積を求めてそれを球体と仮定したときの半径、と言いたいところなのですが、これは間違い。「van der Waals半径」は分子ではなくて原子の半径なのです。

 どうして分子じゃなくて原子なのか。詳しいことは知りませんが、分子間力だけで「くっついている」分子結晶のことをvan der Waals 結晶、その「くっついている」ことを共有結合やイオン結合と対比して「van der Waals結合」と呼んだりします。イオン半径や共有結合半径と同様に原子と原子の距離から求める半径として「van der Waals半径」という言葉が使われている。こう考えると原子の半径なのは納得できるのではないでしょうか。

江頭 靖幸

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