悲しみのリプリント請求。 Pray for Ukraina. Pray for all of us.(片桐教授)
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今、我々は歴史の大きな動きの中にいます。
リプリント請求(別刷請求)という研究者間の習わしがあります。研究論文が手に入らない場合、その著者にリプリント(論文の正式なコピー)の送付を「お願い」し、運が良ければ、その論文の別刷りが著者から送られてくるシステムです。多くの場合、論文の著作権は出版社に移譲されているので、著者は論文の刊行時にそのリプリントを数十〜100部購入し、それを請求された時に請求元に「無料で」送付する習わしです。沢山の請求があるということは、それだけ皆が自分のお仕事に注目していることを意味するので、請求されることは名誉です。著者は喜んで郵送料を負担して、リプリントを航空便で送ります。
今から35年前、まだ私がポスドクだった頃(1989年)、ティミショアラ大学の若い研究者からリプリントの請求を受けました。当時私の出した論文は、指導教授の方針で、Chemistry Lettersという日本化学会の雑誌に投稿していました。でも,当時はその雑誌は世界的にはメジャーではなかったので、海外、特に東欧では手に入りにくく、しょっちゅう東欧からリプリント請求がありました。リプリント請求のPost cardの裏面に切り取り線があり、それを切り取り、Air Mailの封筒にのり付けし、論文を封筒に入れて、「封はしない状態」で郵便局に持っていくと、安い郵送料で簡単に発送できました。翌日発送するつもりで、Post cardを受けとった日の夕方に封書を用意しました。しかし、その夜のNHKニュースで燃えおちるティミショアラ大学が映っていました。ルーマニアのチャウセスク大統領(当時)による蛮行でした。それがその後のルーマニア革命の発端になり、最終的にはソ連の崩壊につながりました。
見たことの無い、でも間違いなく私とつながりを持ってくれたリプリント請求主の安否を私は心配しました。翌朝、郵便局でリプリントを発送しました。しかし、局員さんはぽつりと「届かないかもしれませんね」とつぶやきました。
キエフのウクライナ科学アカデミーはヨーロッパの有機フッ素化学の拠点です。国際学会で知り合いになった研究者も多数います。ウクライナへのロシア侵攻のニュースに接し、あの日の胸を締め付けられるような悲しみが蘇りました。あの先生は無事だろうか?、学会でポスター発表していたあの学生は無事だろうか?。
こんな形で歴史の大きな流れを知ることは残念でなりません。そして、今の私には祈ることしかできません。
Pray for Ukraina. Pray for all of us.
あのティミショアラのときと同じで、祈るしかできない私は無力です。
これが終わりの始まりにならないことを祈ります。
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