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気候変動だけが世界の問題ではない(江頭教授)

| 投稿者: tut_staff

 昨日の記事につづいて、もう少し「気候変動問題の解決」について考えて見たいと思います。前回は「気候変動によって何人人が死ぬか」という問の立て方をしたのですが、このような問いかけは不充分だ、と感じた方も多いのではないでしょうか。なぜなら「気候変動によって人が死ぬ」こと以外にも「気候変動への対策によって人が死ぬ」こともあり得るからです。

 前回紹介したドイツの活動家のような人が、高速道路でのデモでは収まらずにもっと大きな活動をしたらどうなるのでしょうか。民主的なプロセスでは気候変動対策は間に合わなくなる。もっと強力な手段が必要だ。そう考えて大規模なテロによって世界中の石炭関連のインフラを破壊したとしたらどうなるのでしょうか。もちろんこれもやはり極論で、前回紹介したニュースの活動家達はこのようなテロリストではないと思います。それに、世界の石炭関連のインフラを一気に破壊する技術など想像も付きません。とはいえ、これが可能なら気候問題は大きく解決に向かって動き出します。

 ではそのとき日本はどうなるのでしょうか。石炭に頼っている分、約3割の電力を失えば工業生産はおろか市民の一般生活への影響も計り知れません。冬の寒冷地での暖房はともかく、夏の酷暑で冷房が自由に使えないとなれば、その環境に耐えられない人もいるでしょう。病院の機能も保持できないとすれば死に至る患者も一人や二人ではないはずです。夏の酷暑は気候変動の影響かも知れませんが、このテロによって気候問題が解決に向かったとしてもその効果がはっきりするのは数十年後。このような極端な気候対策は悲劇しか生み出さないでしょう。

 もちろん、こんな非現実的な気候変動対策を考えても意味はない。そう言うこともできますが、この思考実験だけで気候変動への対策が常に人類にとって良いことだとは限らない、「気候変動への対策によって人が死ぬ」こともあり得る、ということがわかります。

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 より現実的に考えてみましょう。われわれは伊達や酔狂で二酸化炭素を排出しているわけではありません。安価なエネルギーをもとめて石炭や石油を燃やしているのです。そして安価なエネルギーを一番求めているのは世界でも貧しい人々です。はっきりさせておきたいのは、この「貧しい」という表現は絶対的な貧困のことであり、比喩表現ではなく人が死んでしまうタイプの貧しさだということです。

 気候変動対策のために貧困から救われるはずだった人々が見捨てられる。あるいはやっと貧困から抜け出した人々が再び貧困に陥ってしまう。そんなことが起こるような温室効果ガスの削減は「気候変動問題の解決」ではあるでしょうが、世界が、人類が抱える問題の解決とは認められないでしょう。

 これは、なにも突飛なことではありません。SDGsには17の目標があり、そして第一の目標は「貧困対策」なのですから。

 

江頭 靖幸

 

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