再録「今は昔のリーマン・ショック」(江頭教授)
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リーマン・ブラザーズが倒産したのは2008年の9月のことでした。そのとき、たまたま緑化関係の研究仲間の人たちとインドを訪問していたのですが、遅れて合流した人から「リーマン・ブラザーズが破綻して大騒ぎになっている」という話を聞いたのが私にとっての最初の情報だったと思います。金融には関係のない私でもリーマン・ブラザーズの名前は知っていましたから、大変なことが起こった、とは思ったのですが、その影響の大きさを実感したのはずっと後のことです。
リーマン・ショックの大きさを実感させてくれたのはその後明らかになった世界の温室効果ガスの排出量変化です。リーマン・ショックはエネルギー起源のCO2排出量を減少させるほど甚大な影響を世界経済に与えていたのでした。つまりリーマン・ショックによって工業製品の生産などの実体経済が縮小する、という現象が世界規模で確認されたということです。
私は、金融の世界でのサブプライムローンとかCDSとか、実態のない仮想的な取引の問題が実体経済に影響を及ぼす、それも非常に大きな悪影響を与えるということが、最初は信じがたく、やがては不条理に感じられる様になりました。東日本大震災のような天変地異があったわけでも、コロナウイルスのような伝染病の流行でもなく、単純に人間側の問題だけでこれだけ大きなことが起こったというのです。しかも、金融業は農業や工業とは違って完全な虚業です。金融によって工業生産や農業生産が影響をうけるというのは「尻尾が犬を振り回す」ようなものではないでしょうか。
食料や工業製品などの実態のある財を効率的に生産して配分する、市場経済はそのための仕組みだったはずなのですが、これはどうしたことでしょうか。実態のある財の価値とは異なるものが市場における価値(つまりお金)に紛れ込んでいるのではないか。私にとって14年前のリーマン・ショックはそんなことを考えさせる事象でした。