宇宙から来た病原体の恐怖を描いた映画「アンドロメダ病原体」(江頭教授)
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「アンドロメダ」というと何を思い浮かべるでしょう。私はおじさんなので「拡散波動砲!」とか思ってしまうのですが、皆さんは「アンドロメダ銀河」でしょうか。それともその名前の元になった「アンドロメダ座」でしょうか。さらに遡ってギリシャ神話版奇稲田姫の「アンドロメダ」でしょうか。ともあれ今回のお題の映画「アンドロメダ病原体」では宇宙から来た病原体につけられた名称が「アンドロメダ」という設定です。(とはいえ別にアンドロメダ星雲から来たわけではありません。)
ぽつんと孤立した小さな町、その町の様子を外からうかがっている人影。それは地球に戻ってきた無人宇宙船のカプセルを回収する任務を帯びた二人組の軍人でした。かれらが町に入ると町中におびただしい数の死体が。そして彼ら自身もすぐに町の人たちと同じ運命をたどることに。
ことの異常さに気がついた軍部はすぐに生物化学戦対応の態勢で対処を開始します。完全防護服姿の科学者たちが町を調べると二人の生存者、泣き続ける赤ん坊と胃潰瘍で酒浸りの老人と、を見つけたのでした。
その後、物語はこの病原体の正体と対応策とを探る科学者チームが中心となって進みます。宇宙から来た病原体の恐るべき能力、病原体の漏洩を避けるために自爆用核爆弾まで装備した最新鋭の施設のなかで、病原体についての研究を進める化学者達。そしてアンドロメダ病原体の意外な特性が明らかに…。
パンデミックをテーマとした映画なのでとてもタイムリーだと思うかも知れませんが、実はこの映画は1971年の作品です。すでに半世紀前の映画なのですね。さて、その内容について。(以降にはこの作品についてのネタバレを含んでいます。)
宇宙からやってくるのが宇宙人や怪獣でない、目に見えない病原体だ、というだけで話はぐっとリアルになります。とはいえ異形な宇宙人の姿が顕わになるシーンや街の大破壊シーンなどは無し。アンドロメダ病原体によるショックシーンは最初の全滅した町を探るシーンぐらいです。
ではこの映画の見所はなにか。ズバリ「実験」なのです。
農場の地下に作られた研究施設の最新鋭の防疫システムの描写、そしてそこで行われるアンドロメダ病原体の分析のシーンがかなり長尺で描かれます。アンドロメダ病原体によって死亡したマウスと生きているマウスを別々のケージ(もちろん完全密閉式です)に入れる、両者を連結するパイプの弁を開くと、すぐに生きているマウスが苦しみだし、やがて死んでしまう。なるほど、アンドロメダ病原体は空気感染するのか。今度はパイプにフィルターをいれて実験。フィルターの目を細かくしてゆくと空気感染がとまるフィルターの目のサイズが分かる。これでアンドロメダ病原体のサイズが分かったぞ。
こんな感じの「実験」が非常に分かり易く絵解きされ、だんだんアンドロメダ病原体がリアルに感じられ、その恐ろしさもじわりと伝わってくるのです。
もっとも全編これではさすがに保たないということなのでしょう。後半にはアンドロメダ病原体が施設内に漏出するという事態となり自爆用核爆弾があわや爆発、というサスペンスが。そして全滅した町に残されていたアンドロメダ病原体はいったいどうなるのか。普通に娯楽作品としてカタルシスもある映画に仕上がっています。
とはいえ、化学、というか化学工学を勉強した後で見ると、うーん、となるシーンが結構あるのも事実です。先ほどの二つのケージを使った伝染性の確認のシーン、いや、あのスピードで伝染するのはおかしいでしょう。ちゃんと気流を作ってあげないと。それに「核爆発のエネルギーを使って増殖できる病原体」が「pHが合わなかったから死滅」っていくら何でもおかしくないですか?
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