「日本沈没」の科学描写 2021年版 (江頭教授)
| 固定リンク 投稿者: tut_staff
「日本沈没」という物語はもともとはSF作家、小松左京氏の1973年の小説です。このブログでは2021年のTVドラマ「日本沈没-希望のひと-」と1973年の映画「日本沈没」について紹介したのですが、今回は前回につづき両者の科学描写の比較。今度は2021年のTVドラマについて述べましょう。
「海底の地下900メートルに存在するCO2を出さないエネルギー物質Celestec」第1話の冒頭でのこのセリフで、このTVドラマがリアリティというものを完全にゴミ箱に投げ捨てていることが分かります。海底に埋まっているエネルギー物質といえばメタンハイドレートですが、これは巧くいっても「極度に掘り出しにくいシェールガス」の様なもので、お世辞にもCO2を出さないエネルギー物質とは言えません。これで「2050年に二酸化炭素排出量ゼロ」は絶対に不可能なのは温暖化問題に興味のあるひとなら誰でも知っていることです。いや、こんなうそをヌケヌケと国際会議で演説する首相(仲村トオル氏が演じています)の鉄面皮ぶり(あるいは能天気ぶり)と欺瞞に満ちた日本政府の温暖化対策を表現しているのかも。開始2分もたたない時点で深読みが始まって、もうまともに見ていられません。
まあフィクションなんだから、そういう設定なんだから(「設定言うな!」)と自分に言い聞かせて見続けたのですが、その後に続くのが日本沈没が起こる・起こらない論争。主人公が応援しているこのドラマの田所博士(香川照之)は一旦は論争に負けるのですが、後に一発逆転。で、その決め手となったのが、主人公がデータ改ざんの証拠を見つけたこと。いや、あの、たった一人がやったデータの改ざん程度で話がひっくり返る、ってどんだけ少ないデータで議論してるんだよ。
こんな調子で1973年の映画に比べて2021年のTVドラマは観客を物語に引き込む努力をほとんどしていないと思います。1973年版では日本沈没が確信されるまでに政府が陰から支援するプロジェクトが立ち上げられ、多くの人が協力してデータを集めた、という描写がありました。2021年のTVドラマでも国による支援についてはセリフで説明されていましたが、どう見ても香川照之氏の個人研究レベル。
これは日本人の海外脱出のためのプロジェクトについても同様で、多くの人間が組織の中で役割を担いながら大きな事業を成し遂げている、という感覚が2021年版には希薄なのです。脚本作りのテクニックの問題なら仕方がないですが、私が恐ろしく感じるのは2021年のTV関係者の科学や組織に対する理解の浅さがこの違いを生み出しているのではないか、という点です。
TVドラマならまだしも環境問題を扱ったドキュメンタリーなどをこのレベルで作成されたらどんなものが出来上がるのか。物理的でない比喩的な意味での「日本沈没」の原因になりかねない問題だと思います。
PS:
今気が付いたのですが2021年TVドラマ版にでてくる謎の環境企業「Dプランズ」社ですが、これって「D計画」を英語にしただけですよね。なるほど、実は本当に日本沈没に対応していたのはDプランズ社を隠れ蓑にした政府の秘密機関で、「日本未来推進会議」というのはマスコミの目をくらますためのデコイだったのか!(ああっ、また深読みしてるし。)
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