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良い学生実験とは(江頭教授)

| 投稿者: tut_staff

 これは私が前の職場にいた頃のお話です。学生実験の際にガラスで手をケガする人が毎年必ずでてくる、という問題に気が付いた学生実験の担当者達。これはいけない、ということでけがの原因を探ってゆくと、どうやらゴム栓に穴を開けてガラス管を差し込む操作でのケガが多いらしい。ケガをしたケースを観察すると差し込む際にガラス管のゴム栓から離れた部分を持って力を入れて押し込もうとしている場合がほとんど。ガラス管のゴム栓に近いところをもって作業をすれば力が巧く伝わってくれるのですが、離れたところを持つと変に力がかかってガラス管が折れた拍子に手に刺さってケガをするのですね。

 これが分かってしまえばこちらのもとでも言いましょうか。授業の際に「ガラス管のゴム栓に近いところをもって作業する」というコツを事前の講義で強調する様になってからみるみるうちに事故は減っていったとか。

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最近は穴が開いたゴム栓が売っているのですね。いや、学生実験で使うならちゃんとボーラーで穴を開けるところからやらなくちゃ!

 ここまではどう見てもサクセスストーリ-ですね。学生が実験中にケガをするのは明らかに良くないことですから。

 ところがこれに気を良くしたのか、同じ様な改善を次々と進めることに。ケガの防止がある程度進むと、今度は「実験に失敗しないように」という工夫に焦点が移ってゆきます。だんだん難しい作業はさせない、とか一部の試薬はこちらで下ごしらえをしておくとか。いや、ちょっとまって、これって学生実験としてどうなんでしょう?

 この方向での改善を続けるとどうなるのでしょうか。最終的には「こちらに調理済みのものが用意されています」といって完成品がでてくる料理番組みたいになるのではないか。

 かなり初期の学生実験であればこの様な取り組みは重要でしょう。なによりもまず「化学実験の楽しさを体験する」ことが最初の学生実験では重要ですから、実験が巧く行くことは最優先ですよね。次は実験のなかでこの作業に習熟して欲しい、というポイントが決まっている場合。そのポイント以外で失敗してしまうと教育効果が下がってしまいますから、それ以外はなるべく失敗しないようなお膳立てが必要ですね。

 とは言え、学年が上がってくれば過度な干渉は良くないでしょう。学生実験は卒業研究での実験へと繋がってゆくもの。ですから普通の研究室のような実験環境を体験することが重要になってきますからね。

江頭 靖幸

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