世界のエネルギー事情(江頭教授)
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本学工学部の柱の一つ「サステイナブル工学」ですが、私は工学部の二年生を対象に「サステイナブル工学基礎」という授業を担当しています。「サステイナブル工学」はサステイナブルな社会を造ろう、という目標を持っている訳ですが、その根底には現在の社会はサステイナブルではない。このままでは行き詰まってしまう、という認識があるのですね。
授業の前半ではこのような「サステイナブルではない」点について述べるのですが、その最大の要因の一つはやはりエネルギー問題でしょう。当然、「サステイナブル工学基礎」の授業でもこの問題を論じることになります。
いや、参った。大抵の授業は毎年同じ内容を説明すれば良いのです。「今年から炭素の原子量は11になりました」とか「最近の二酸化炭素は液化しにくいですね」なんてことはありません。でもエネルギー問題はそうではない。特に最近はこの特徴が著しい。2019年末から始まったコロナ禍でエネルギーの需要は落ち込み、一時は「マイナスの石油価格」なんて珍事が現実になる始末。でも今年は戦争の影響で原油価格は高騰しています。
とはいえ、世界エネルギー事情には長年変化しない特徴もあるのです。
上の図はエネルギー白書2021から引用したものですが、世界全体でどんなエネルギーが使われているかを示しています。
図の左端は1965年。いま59歳の私が3歳の頃です。その際のエネルギー源は石炭37.6%、石油40.9%、天然ガス15.7%でした。合計すれば化石燃料が94.2%を占めています。一方、図の右側、2019年では石炭27.0%、石油33.1%、天然ガス24.2%で合計84.3%です。化石燃料の割合は約1割減少した、とも言えますが、半世紀以上経ってなお、化石燃料がエネルギー源の主流であるという状況は変わっていないのですね。
エネルギーを供給するシステム、とくに化石燃料の施設の使用期間はかなり長く、すでに完成したシステムはなかなか変わることがない。エネルギーへの需要が大きく変化するとき、それに合わせて供給を迅速に変化させることはできない。これが化石エネルギーの価格が大きく変動する理由だ、とも考えられるでしょう。
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