eneloopの衝撃(江頭教授)
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先日の記事で「電子機器の電源として電池を用いればどこでも利用可能で便利です。でも電池を準備するのはそれなりの金額がかかる。」という書き出しで電源アダプターの話を書きました。電池はなくなるたびに新しいものに買い換えないといけない。電力量単位で考えると電池はかなり割高になる。だから電源アダプターが必要だ、という話でしたが、電池を使いながら費用を抑える工夫として充電式の乾電池を使う、という手がありますよね。最初は費用がかかりますが充電器とそれに対応した電池を買えば、あとは家庭の電源コンセントでほぼ無限に充電を繰りかえすことができるのです。
乾電池型ではありませんでしたが、小型のカセットレコーダーやCDプレイヤーなどはこの充電式の電池が電源として使われていました。これらは持ち歩きして音楽を聴くための機器(携帯音楽プレイヤーです。スマートフォンが登場する前の時代だという点に注意!)ですから、ほぼ毎日使うというのが一般的だったと思います。電池がなくなったら(消耗したら)新しい充電式の電池に入れ換えれば継続して利用できる、ということで私は複数の電池を準備していつも鞄の中に充電済みの電池を入れておいたものでした。
なら他の電気製品も乾電池は全て充電式の電池に交換してしまえば良いのでは。それはその通りで、今では私は普通の乾電池はあまり使わなくなっています。でも、こんなことができる様になったのは実は「eneloop」という製品が登場して以降のことなのです。
図はPanasonicのホームページから。eneloopは今ではPanasonicの製品となっています。
充電式の電池は充電と放電をくり返して使う。というのは今も昔も変わりません。でも昔の充電式の電池は、何かの用途に利用するために回路に電流を流す、ということをしなくても放電して電力量が減ってしまう、という特性があったのです。いえ、正確には今の充電式の電池、たとえば最新の eneloopでもこの現象(自然放電と呼びます)は起こっています。その証拠にeneloopの商品説明のWEBサイトではeneloopの特徴として「10年後でも残容量約70%保持を実現。」と誇らしげに書かれています。たしかに凄いのですが、10年後でも100%保持、ではないのですね。
おっと、話が少し前のめりになりました。eneloop登場以前の充電式の電池は実際には結構早いスピードでこの自然放電が起こってしまうのでした。
先に述べた携帯音楽プレイヤーの電源であれば、充電した電池を使い終わったらすぐに充電をし直す、といった作業を数日程度のサイクルでくり返します。この場合は充電された電力のほとんどは自然放電が起こる前に利用されます。
でも、他の用途。例えばリモコンの電池を古いタイプの充電式の電池に替えたとしたらどうでしょうか。1週間や2週間という時間でリモコンの電池が自然放電でなくなってしまって、そのたびに充電し直す、ということになるでしょう。これは充電された電池の使用効率が悪い、という問題に留まらず、リモコンという装置の使い勝手に致命的な問題を起こすことになります。
eneloopというのはこの点に注目した商品でした。なるべく大量の電力を保持できるように、という当時のメインの発想を超えて、自然放電を少なくしよう、という方向で開発された商品なのです。携帯音楽プレイヤーの様に電力を大量に消費し、充電も頻繁にくり返す用途であれば保持電力量を大きくすることが充電の手間を減らすことになる。でもリモコンのようにたまにしか使用されない機器であれば自然放電こそが主なエネルギーロスの原因なのです。自然放電に注目することで充電式の乾電池の用途がぐっと広がったのですね。
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