日本の温室効果ガスの排出量(2020年度版)(江頭教授)
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最大の環境問題である地球温暖化、その原因物質である二酸化炭素をはじめとする温室効果ガスはだれがどのくらい出しているのでしょうか。温室効果ガス削減のための基本的な指標となるこのデータ、日本国内での発生量については温室効果ガスインベントリオフィス(GIO)がとりまとめて毎年発表しています。最新版はこの4月に発表された2019年度のデータ。少しタイムラグがあり、一昨年度のデータを昨年度のうちに整理して今年度発表する、というながれになっています。
さて、実はこの記事、昨年もほぼ同じ書き出しで書いた「日本の温室効果ガスの排出量(2019年度版)」のアップデート版ですが、その2019年度版の記事も2018年度版、2017年度版、2016年度版、2015年度版、2014年度版のアップデートなので、同じテーマで7回目の記事となります。さて、今回の結果は
2020年度の我が国の温室効果ガス総排出量︓11億5,000万トン(CO2換算)
前年度の総排出量(12億1,200万トン)と比べて、5.1%(6,200万トン)減少。
となっています。昨年2019年度版では前年度比2.9%減、その前の2018年は3.9%減、2017年度2016年度と続いて1.2%減、さらに2.9%減、3.1%減と続いて、直近のピークである2013年からとうとう7年連続の減少となりました。2018年度以降「排出量を算定している1990年以降で最少」という結果が続いており、今回はその記録がさらに更新されているのです。
この減少傾向は、日本社会が温室効果ガスを出さない社会に向けて構造的な変化を起こしている過程だと言ってよいと思います。ただ今回発表された2020年度のデータの5.1%減というのはそれまでに比べて減少幅が大きく、報告書では「省エネの進展」、「電力の低炭素化(再エネ拡大及び原発再稼働)」に加えて「新型コロナウイルス感染症の感染拡大」等が影響した、と述べられています。
昨年度の記事は
新型コロナウイルスの感染拡大が日本の温室効果ガス排出量に与えた影響が確定的になる2022年から振り返るしたら、さて、この時代はどのようにみえるのでしょうか。
と書いて締めたのですが、今回の5.1%減少、というのがその答えだと言えるでしょう。
さて、温室効果ガス排出量は今後どのように変化してゆくのでしょうか。コロナ禍の影響が薄れるにつれて排出量は元の傾向に戻るのでしょうか。つまりコロナ禍は社会に対する一時的なショックに留まるのでしょうか。それともコロナ禍によって社会の変化が加速されて排出量は減少したままになるのでしょうか。それが明らかになるのはもう1,2年後となりますが、その時示されるデータにはロシア・ウクライナ戦争の影響も新たに付け加わっていることでしょう。2019年度まで単調に温室効果ガスの排出量を減らしてきた日本社会にも激動の世界情勢の影響が現れることになるのです。
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