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2022年9月

2022.09.30

一酸化二窒素はNOxなのか?(江頭教授)

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 本日のお題「一酸化二窒素はNOxなのか?」ですが、普通に考えれば「その通り」です。

 ここで普通、というのは「NOx」が窒素酸化物の一般名称である、と解釈した場合です。ですが「NOx」には大気汚染物質の名称、という意味もあります。その場合の「NOx」は一般的にNOやNO2のことを指すのではないでしょうか。

 大気汚染物質としての「NOx」は「ボイラーなどの固定発生源と自動車などの移動発生源」に由来するもので、「高温燃焼の際に発生するサーマルNOxと燃料にもともと含まれる窒素原子が酸化したフューエルNOxとに分類される」などとされています。

 その一方で一酸化二窒素(N2O)は主に温暖化効果ガスとして扱われています。以下の図は温室効果ガスの排出量の内訳ですが、N2Oは二酸化炭素、メタンにつづいて第三位の排出量です。(ただしこの数値はCO2換算されていることに注意。実際の排出量は約300分の1です。)

 温室効果ガスのインベントリではN2Oの放出の最大の原因は農業で、排出量のほぼ半分を占めるとあります。前述のサーマルNOxやフューエルNOxとして放出されるN2Oもありますが、これは第2位で全体量の三分の一以下でした。これをみるとN2OとNO・NO2をNOxと呼んで一緒に扱って良いのか、という疑問が湧いてきます。

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出典)温室効果ガスインベントリオフィス

全国地球温暖化防止活動推進センターウェブサイト(http://www.jccca.org/)より

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2022.09.29

帰ってきた紅華祭(江頭教授)

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 紅華祭とは、東京工科大学と日本工学院八王子専門学校が、毎年10月に合同で開催している学園祭です。工科大学の学際だから「こうかさい」。工科際では味気ないので、「紅華祭」となったのでしょう。秋の学園祭にはふさわしい名前ですね。

 この手のイベントの例に漏れず、この「紅華祭」もコロナ禍の影響をもろに受けました。2020年度、2021年度はオンラインでしか実施ができなかったので、今年の「紅華祭」は3年ぶりの対面実施となるのです。

 ということは知っていたのですが、キャンパス内を歩いていて写真の看板を見つけたときはちょっと感動しました。「紅華祭」はもうすぐスタート。あと11日と間近に迫っているのです。(おっと、この記事がオープンになるころにはあと10日ですね。)

 さて、今年の紅華祭は10月9日と10日に開催です。例年、土曜日、日曜日の開催だったそうですがいつしか本年度と同じ日曜日、月曜日の開催となりました。10月10日は月曜日ですが体育の日。休日を利用した2連休での開催です。

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2022.09.28

アドバイザー面談のこと(江頭教授)

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 「アドバイザー」は本学全体の制度です。高校生、中学生の皆さんに理解し易いイメージで言えば「担任の先生」のような役割だと思ってください。大学では研究室に所属すれば強固な人間関係ができるのですが、入学から研究室配属までの間、どこにも所属しない状態になるのが一般的です。この時期、大学生活になじめないと生活のリズムを壊すことが多く、大学からドロップアウトしてしまう可能性が高いのです。それに対応するために作られたのがアドバイザー制度で、定期的に学生諸君と面談をすることでケアをすることになっています。

 後期の始まりに合わせて我々応用化学科でもアドバイザー面談を行っています。「研究室の事情に合わせて9月5日から30日までの間に実施してください」というのが学生委員会の指示ですが、これにはなるべく対面で、という条件つきです。休み中にわざわざ大学に来てもらうのも大変なので今週月曜日の授業開始に合わせて面談を行うことに。

 私は授業開始日の9月27日に1年生と研究室配属済みの3年生の面談を済ませました。4年生はすでに卒業研究を始めていますから、研究打合せに合わせて面談すれば良く、時間はかなり自由になりますね。

 さて、1年生と3年生、4年生はこの通りとして、2年生はどうしましょうか。

 2年生のアドバイザー面談は必須ではなく、必要に応じて行うことにしています。ここで「必要」というのは教員側からだけでなく、学生からの必要も考慮しています。

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2022.09.27

NHK日曜討論 「1.5°Cの約束 脱炭素社会 どう実現?」を見て(江頭教授)

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 NHKの「日曜討論」と言えば私が子供の頃から放送していた伝統ある番組。政治に関連したテーマで与野党の代表者が丁々発止とやり取りする番組、というイメージでした。でも今回(放送日は 2022年9月25日 の日曜日です)取り上げられているのはタイトル通り「1.5°Cの約束 脱炭素社会 どう実現?」というテーマで政治絡みではないのです。

 さて、討論の参加者が与野党の代表ではない、というのはちょっと新しい感じがしました。「専門家や環境団体の方々と考えていきます」と司会の方が言っていたのですが今回のゲストは以下の様な方々です。

 まずは東京大学公共政策大学院 特任教授の有馬 純教授。この方は元は経産省のひとでCOPでの首席交渉官だったそうです。まあ、専門家代表でしょうか。クライメート・インテグレート代表理事の平田仁子氏、気候変動イニシアティブ代表の末吉竹二郎氏のお二方はNPO代表。信州大学特任教授の夫馬賢治教授は専門家ではありますが経済が専門の方のようです。環境団体 record1.5 共同代表の山本大貴氏はNPO代表というより若者代表でしょうか。

 さて、これは1時間番組なのですが、まず最初のおよそ30分ぐらい、討論らしい討論がありません。そもそもタイトルに「脱炭素社会 どう実現?」と有るぐらいですから、だれも脱炭素社会の実現に反対しないのです。甲論乙駁と言いますが、今回の日曜「討論」では甲が論じても乙は反駁しない。なんというか甲論乙論で前半が過ぎてしまいました。

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2022.09.26

本日(9月26日)から後期授業が始まります。(江頭教授)

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 本日(9月26日 月曜日)から後期授業が始まります。夏休みも終わり、14回の授業と期末試験の新しい学期が始まるのです。

 えっ、今頃?と思っている高校生の皆さん、大学の授業は前期と後期の2期制なので「夏休み」が終わって授業が始まったのではなく、「秋休み」が終わって授業が始まったのだと思ってください。

 前期、後期ともに14回の講義と1回の試験、全部で15週間で一学期となります。前期と後期を合わせて30週間ですから、その間の休みは全部で22週間、春と秋に平均11週間の休みがある計算です(実際は学期中のお休みなどがありますから、そこまでまとまった休みにはなりませんが。)

 1学期の授業の終わりは7月26日、試験も終わり「秋休み」が始まったのが8月7日ですから、6週間半くらいの休みだった、ということになります。

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2022.09.23

カミオカンデのちょっといい話(江頭教授)

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 卒業式、正確には学位記授与式に参加していたときのこと。挨拶の中で「カミオカンデ」のお話しがでてきてました。今回はこの「カミオカンデ」について昔に聞いたちょっといい話を紹介しましょう。

 まず「カミオカンデ」とは何か。岐阜県の神岡鉱山の地下につくられたニュートリノ観測用の施設で、その観測の指揮をとった小柴昌俊教授がノーベル賞を受賞したことで一気に有名になりました。

 でも私がこの話を聞いたのは小柴教授のノーベル賞受賞(2002年)よりずっと前のことで、おそらく超新星爆発によって発生したニュートリノの観測に成功して一部で話題となっていた1987年から何年かたったころの話だったと思います。当時私は東京大学の化学工学科の学生で、この話も研究室の先輩から聞いたのを覚えています。

 「カミオカンデ」は言ってしまえば「水の塊」を検知器で取り囲んで、その中でニュートリノと水(というか水分子内の電子)の反応を検出する装置です。こういうと単純ですが、相手はほとんど物質に干渉しないニュートリノ。これを捉えるためには膨大な量の水が必要で、なおかつその水の中で余計な核反応が起こるとノイズになってしまいます。「カミオカンデ」の運用が開始された当初、装置内に貯めた水に含まれる微量の放射性物質の影響が。微量とはいっても微弱なニュートリノのシグナルを捉えるためには深刻なノイズになる。さてどうすればよいのだろう。

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2022.09.22

経済成長に限界はあるのか(江頭教授)

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 今回も慶應義塾大学大学院の小幡 績准教授の「ついに「日本が独り勝ちする時代」がやってきた」という東洋経済オンラインの記事に関連した内容ですが、少し視点を変えて小幡氏がその到来を予見している「膨張しない経済」について考えてみたいと思います。

 まず最初に注意しておきたいのは、この「膨張しない」という表現はおそらく「バブルにならない」程度の意味で、完全に成長しない状態を示しているのではなさそうだ、という点です。言い換えれば「安定成長」となるでしょうか。

 とは言え「安定成長」という言葉には特別な意味づけがあって、日本の高度経済成長(1970年代半ばまで)が終わったあと、年10%を超えるような急激な経済成長は終わったけれど、それでも毎年そこそこの経済成長は起こっている、そんな状態を示す言葉です。つまり、1970年代の石油ショック以後の時代が日本の「膨張しない経済」の時代だったのでしょうか。

 実はこの「安定成長」の後に「バブル景気」がやってきます。

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2022.09.21

スウェーデンより社会保障が充実し、アメリカよりイノベーションが盛んで、中国より市場規模の大きい国!?(江頭教授)

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 この記事は慶應義塾大学大学院の小幡 績准教授の「ついに「日本が独り勝ちする時代」がやってきた」という東洋経済オンラインの記事への論評の続きです。

 最初にお断りしたように私は経済学については門外漢なので、上記の小幡氏の記事の内容について判断できるほどの知識はありません。でも賛成できる点も多々あって、中でも「これはその通りだ」と思ったのは以下の部分。

日本の有識者や世間の議論の悪いところは、世界でいちばんのものを持ってきて「それに日本が劣る」と騒ぎたて、「日本はダメだ、悪い国だ」と自虐して、批判したことで満足してしまうことだ。社会保障はスウェーデンと比較し、イノベーションはアメリカと比較し、市場規模は中国と比較する。そりゃあ、さすがに勝ちようがない。

これぞ我が意を得たりでして、常々私も気になっている点なのです。

 これも昔は違っていたと思います。世界で一番優れた製品、世界で一番優れた制度をよく観察し、それを参考に、というかそれをまねして自国に取り入れるというのが日本の国のやり方だった時代がありました。その時代なら世界でいちばんのものを持ってきて「それに日本が劣る」と騒ぎたてることにも意味がありました。そしてその後に続くのは「日本はダメだ、悪い国だ」ではなく「我々もそれに負けないようなものを創ろう」であったのです。

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2022.09.20

サステイナブルな社会に「イノベーション」は有るのか(江頭教授)

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 この記事は慶應義塾大学大学院の小幡 績准教授の「ついに「日本が独り勝ちする時代」がやってきた」という東洋経済オンラインの記事への論評の続きです。

 小幡氏は世の中の財やサービスを「必需品」と「ぜいたく品」に大別し、現在の先進諸国では本来は不要な「ぜいたく品」を必要だと思い込ませることによって経済的なバブルを維持している、と指摘しています。「ぜいたく品」は新しい刺激で欲望を作り出し続けるための「麻薬」の様なものであると。そして、

われわれは、必需品が作れなくなり、いらないぜいたく品が世の中に溢れ、人々は「麻薬」にお金を使っている。だから、新型コロナウイルスや戦争などなんらかの社会的なショックによって供給不足に陥り、必需品が目に見えて高騰してはじめて、ようやく「今まで必需品をつくることに手を抜いてきた社会」になっていたことに気づくのだ。

と、現下の状況を解釈してみせるのです。

 そして新たな「ぜいたく品」をつくるイノベーションよりも「必需品」を地道に改良する事を良しとする社会と経済の在り方を「膨張しない経済」と呼び

必需品の質が上がっていく。基礎的な消費の質が改善する。これが社会にとってもっとも必要であり、社会を豊かにし、社会を持続的に幸せにすることだ。格差は生まれにくい。質の差はあるが、その差に断絶はない。社会として一体性は維持されやすい。

とし、今回の世界的なインフレなどの経済変動がその「膨張しない経済」への入口となると述べています。

 小幡氏の予言とおりに社会が変化してゆくかのか、その可能性の大小はさておいて、この「膨張しない経済」というビジョンはとても興味深いものです。「サステイナブルな社会」とはこの「膨張しない経済」のことなのでしょうか。

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2022.09.19

論評 小幡 績「ついに「日本が独り勝ちする時代」がやってきた」(江頭教授)

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 私の専門は化学工学で経済については門外漢。経済学に興味はありますがきちんと勉強したわけではないので経済関係の記事に対して論評できる立場ではないのですが、今回は東洋経済オンラインのある記事について少しコメントしてみたいと思います。

 件の記事は2022年9月17日付けでタイトルは「ついに「日本が独り勝ちする時代」がやってきた」となかなか刺激的。その辺は意識してのタイトルらしくサブタイトルとして「なぜ円安が進んでいるのにそこまで言えるのか」とわざわざ強調しています。

 ちなみに著者の小幡 績氏は慶應義塾大学大学院准教授で以前から雑誌やこのようなサイトでお名前を拝見する先生です。文体は単刀直入でやや強い表現がめだちます。でも、TVだったかネット番組だったか、映像で話をする様子は穏やかで少し茶目っ気が多めの常識人という感じ。学問上の意見は意見としてエッジを立てた書き方をしているのでしょう。

 さて、記事の内容。まず前半では、先進諸国はインフレと不況が同時に起こるスタグフレーションに向かって突き進んでいるとしています。しかしインフレが穏やかな日本にはその心配はない。日本のマスコミの論調とは逆に今の日本は非常に恵まれた状態にあるといいます。

 そして最近の急激な円安傾向については、単に日本銀行による金融緩和の具体的な手法が間違っているだけであり、伝統的な手法に戻せばすぐに解決するはずだというのです。

 タイトルとサブタイトルはこの前半部分でほぼ回収されています。先に述べたように私にはこの議論に対して賛成とも反対とも判断できるほどの知識はありません。ではなぜわざわざこの記事を取り上げたか。実はこの記事の後半で小幡氏は「膨張しない経済」 という実に興味深い考えを披露しているのです。

 「膨張しない経済」って「サステイナブルな経済」のことなのでは?

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2022.09.16

工業触媒に大切なこと(江頭教授)

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 触媒による反応の制御のついて先に説明したので、今回は触媒、特に工業的に物質生産に使用される触媒にはどんな特徴が必要なのかを紹介しましょう。

 まず「触媒は化学反応の進む速度を上げるもの」ですから、反応をより速くすすめられるものが良い触媒だ、ということになります。この反応を加速する能力の程度を「活性」と言います。触媒は活性が高いほど良い、高活性な触媒ほど良い触媒だ、といえるでしょう。

 次に、「触媒を利用して生成物を選ぶことができる」ので、目的の生成物がたくさんできるものが良い触媒です。触媒は反応速度を速くしますが、最終的な生成物の平衡には影響しない。しかし、多くの工業的に行われる反応では平衡まで反応を進めることは少なく、平衡に到達する以前の段階で反応を終了します。平衡に達する途中で生成する物質のうち、どの物質が多く生成するかは触媒に依存することになります。反応生成物のうち、目的の生成物が生じる程度を「選択性」と言います。選択性の高い触媒ほど良い触媒だ、といえるでしょう。

 三つ目の特徴は「寿命」です。

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2022.09.15

触媒による化学反応の制御 エチレンオキサイドの合成(江頭教授)

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 反応を制御するための工学、「反応工学」の話題として圧力による反応の制御について、前回と前々回で紹介しました。今回は触媒による反応の制御についてお話ししましょう。

 例によって「ハーバーボッシュ法」からスタートします。

 発熱反応である窒素と水素からのアンモニア合成反応はルシャトリエの法則から低温ほど有利である。しかし、あまりに低温では反応が進行しない。そこで、アンモニア合成に際して分子の数が減少することに注目し、再びルシャトリエの法則を適用すれば高圧が有利であることがわかる。圧力を上げ、さらに触媒を開発してついにアンモニアの工業的な合成が可能になった。

 さて、ハーバーボッシュ法での開発された触媒の役割は低温でも充分早い速度で平衡濃度が達成されるように反応を加速することです。ただし、触媒を加えると正反応が早くなるのと同時に逆反応の反応速度も大きくなり、平衡状態に達する時間は短くなるものの、平衡の移動は起こりません。つまり「触媒は最終的な反応の結果に影響を与えない。」ということです。

 ここで話変わってタイトルにあるエチレンオキサイドの合成について紹介します。エチレン(C2H4)と酸素(O2)を反応させるとどうなるでしょうか?エチレンの酸化、あるいは燃焼ですから、最終的にはCO2とH2Oができるはずです。ところが銀を含む触媒をつかうとエチレンと酸素からエチレンオキサイド(C2H4O)を作ることができます。エチレンオキサイドを水と反応させるとエチレングリコール(不凍液やポリマーの原料として有用な物質です)が得られるため、この反応は工業的に行われています。ここで銀の触媒というところが重要で、他の触媒ではエチレンオキサイドではなく二酸化炭素と水(それと未反応のエチレン)が生じることになります。

 さて、このエチレンの部分酸化の例と先ほどの「触媒は最終的な反応の結果に影響を与えない」という知見とは矛盾してはいないでしょうか。

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 同じ原料系から触媒を変えることで別の物質を作ることができる。触媒を利用して違う反応を起こすことができるのに「触媒は最終的な反応の結果に影響を与えない。」とはこれ如何に、です。

 

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2022.09.14

圧力による化学反応の制御 メタネーションの場合(江頭教授)

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 圧力による反応の制御につて、前回はハーバーボッシュ法を例にとって紹介しました。

 発熱反応である窒素と水素からのアンモニア合成反応はルシャトリエの法則から低温ほど有利である。しかし、あまりに低温では反応が進行しない。そこで、アンモニア合成に際して分子の数が減少することに注目し、再びルシャトリエの法則を適用すれば高圧が有利であることがわかる。圧力を上げ、さらに触媒を開発してついにアンモニアの工業的な合成が可能になった。

というのが一般的なハーバーボッシュ法の説明ですが、前回は

 実はほとんどの反応は温度で簡単に制御できるか、全く絶望的かのどちらかで、圧力による温度条件の緩和、という手段の対象となる反応は一部に限られる。(中略) 結局、ハーバー・ボッシュ法は、反応制御の手法としては「教科書的」とは言えない。

と結論づけました。

 今回、この結論の部分を、もう少し詳しく説明したいと思います。アンモニア合成以外の反応の一例として一酸化炭素と水素からメタン(と水)が生じる反応、メタネーションを例としましょう。

 メタネーションの反応は発熱反応であり、同時に反応によって分子数が減少する反応です。(一酸化炭素1分子と水素3分子が反応し、メタンの水の分子が一つづつ生じます。)この点では窒素と水素からのアンモニア合成と同じです。

 

 まず、アンモニア合成の時と同様、充分なメタンを生成できる条件の目安となる様な平衡定数を以下の様に計算してみました。

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2022.09.13

圧力による化学反応の制御 ハーバー・ボッシュ法の場合(江頭教授)

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 役に立つ化学物質を作り出す、それが応用化学科の目的ですが、それには二つの側面があります。ひとつは、どんな化学物質が役に立つのかを知ることで、簡単に言えば「材料の開発」です。

 もう一つの側面は有用な物質を実際に作り出すこと、特に大量生産することで、これが化学工学(私の専門です)の中心的な課題です。化学的に物質をつくるのですから、必要となるのが反応の制御。この分野を特別に「反応工学」と呼んだりします。

 さて、化学反応を制御する場合、一番重要な要素はなんでしょうか?タイトルを見ると圧力?いえいえ、やはり最重要の因子は温度でしょう。同じくタイトルにある「ハーバー・ボッシュ法」ですが、これは反応に対する温度条件を圧力を使って緩和した、という例として理解できると思うのです。

 化学の教科書には必ずハーバー・ボッシュ法の記述があります。窒素と水素からアンモニアを合成する場合、平衡までしか反応は進まない。ルシャトリエの法則から圧力が高い方が有利であることが分かり、後は圧力に耐える反応装置をつくるという技術的な問題の解決へと話が進むのが定番です。

 そこで、充分なアンモニアを生成できる条件の目安となる様な平衡定数を以下の様に計算してみました。

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2022.09.12

自己責任とは(江頭教授)

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大学の学部は4年制、大学院と一貫で3年半で終わる学生さんもいますが、基本的には4年間で卒業と決まっています。

 とはいえ、必ずしも全ての学生さんが予定通りに卒業できる訳ではありません。学業の途中で病気になる場合、経済的な問題で学業を続けられない場合もあるのです。そんな場合の一つの選択肢として休学という制度があります。一旦大学を休んで問題が解決するのを待って大学に戻ってくる。先日、そんな休学制度を利用している学生さん達が本学に復帰するためのガイダンスを行いました。休学する学生さんの人数はそれほど多くはないので、このガイダンスは応用化学科だけではなく工学部で共通、学年も全学年共通で実施しました。

 私は教務委員長なので授業に関連する説明をしました。教務関係で学生さんのアドバイスするのは三つの計画を立てること。どんな科目の単位をとって何年後に卒業するかを決める「履修計画」、今期学修する授業を具体的に決める「時間割」、最初の授業に出席するための第一週の「行動計画」。その話をした後でふっと口をついてでたのが表題の「自己責任」の話です。

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2022.09.09

旅のお供のApple Watch ー番外編「流星号、流星号、応答せよ」ー(江頭教授)

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 Apple社製のスマートウォッチである Apple Watch を付けて海外旅行をした、というお話をこちらやこちらの記事で書いたのですが、今回はその番外編。いや、大した事ではなくて「 Apple Watch 」には電話機能もある、というお話です。

 私はスマホとして iPhone を利用しています。通常はこの iPhone と Apple Watch が連動していて電話がかかってきて Apple Watch がなり出すとおもむろに iPhone を取り出して「もしもし」と話しだす、という使い方をしています。iPhone はいつも腰のベルトにつけたホルスターに入れてあって、これはスマホ以前、携帯の頃から私の習慣になっています。

 海外出張でフィールドワークに出るときはホルスターで腰に、というわけには行きません。(どこにぶつけるか分からないですからね。)そこでいつもと別の場所に入れておいたのですが、そこに電話がかかってきたのです。

Apple Watch がなり出したけど、あれ、スマホはどこだったっけ。うーん、見つからないぞ。

ということで、Apple Watch むかって「もしもし」。

 それまで気が付いていなかったのですが Apple Watch にはスピーカーだけでなくマイクもついているのです。普通に通話ができたのですが…なんか恥ずかしいですね。
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2022.09.08

温暖化の責任者はだれか(江頭教授)

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 前回の記事では公害問題と環境問題の違いを説明しました。公害問題は環境問題の一部ですが加害者が分かり易いことが特徴です。そのおかげで対策も比較的に容易である。公害問題では多くの場合加害者は企業でしたから、その対策を法的に義務づければきちんと法に従って対処をとってもらうことができます。

 その一方で環境問題の中には「温暖化」に代表されるような解決の難しい問題もあります。温暖化の加害者はだれかと言えば「みんな」とか「誰もが」という非常に広範囲な対象です。端的に言って温暖化について議論できる程度の余裕のある生活水準にある人間なら多かれ少なかれ現在の産業社会の恩恵を被っているはずで、その産業社会こそが正に温暖化の原因である二酸化炭素を放出しているのですから。

 しかも二酸化炭素の放出の最大の要因は化石燃料の利用であり化石燃料は未だに世界のエネルギー供給の大部分を担っている。エネルギーの供給が如何に社会にとって重要かはロシアとウクライナの戦争による世界の混乱をみれば強く実感されるところでしょう。

 公害問題では原因企業に「止めてくれ」と言って「分かりました」で解決。その一方で温暖化問題はみんなで「止めよう!」と言っても「無理」「こちらにも事情があって…」「そもそも温暖化って本当なのか」などなど、甲論乙駁して収拾がつかないというのが現状なわけですね。

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2022.09.07

公害と環境問題(江頭教授)

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 「公害」という言葉は私自身にとっては非常になじみ深い言葉ですが、はて今の若い人、高校生や大学生諸君にとってはどうなのでしょうか。私が子供だった1960年代から70年代にかけては公害が大きな社会問題になっていたので、まるで今の「温暖化」の様に頻繁に新聞やテレビのニュースに登場していた印象です。今、この言葉がニュースに出てくることはほとんどなく、多くの若者はおそらく授業のなかでこの言葉を学習しているのでしょう。

 もし今、この公害と同じ様な事件が起こったとしたら、それは「環境問題」であり同時に「事故」や「事件」、あるいは「犯罪」とみなされるのではないでしょうか。少なくとも以前の様にその善悪について意見が割れて論争が起こることは想像しにくいところです。

 現在は昔の典型的な公害については法的な規制がかけられています。当時の議論が法律という形で社会に組み込まれている。つまり「公害」という問題は解決されたといえるのですね。

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2022.09.06

環境問題と化学の大切さ(江頭教授)

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 今回はすこし大きな話ですが「環境問題」について考えてみましょう。環境の「環」はまわりのこと、「境」はさかい、つまり境界のことですから、環境は境界を囲むものという意味ですね。たとえば「家庭環境」とか「生活環境」などといえば、その本人ではない周囲の人や物や状況全般を指すことになります。

 でもここで言う「環境問題」の「環境」は人間を取り囲む自然のことです。いえ、環境問題では人間の影響でその「自然」が「自然」ままではなくなることが問題だと言えるでしょう。

 実際、「夏が暑い」とか「冬が寒い」といって、それがたいそう困ったことだとしても「環境問題」とは呼びません。でもそれが「記録的猛暑」とか「数十年来の大雪」であって、その原因が我々人類による温室効果ガスの排出である可能性が疑われる、となれば立派に「環境問題」の仲間入りです。

 ポイントは人間活動がいわゆる「自然」に対して影響を与えている。与えるほどに人間の活動が盛んになった。人間のポテンシャルが高まった、というところにあるのでしょう。いわゆる産業革命が全世界に広がってゆくに従っていろいろな「環境問題」が起こったのです。

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2022.09.05

オーストラリアからの帰国の手続き(江頭教授)

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 先日来、2年半ぶりにオーストラリアに出張している、というお話を書いてきましたが、今回はとうとう帰国のお話です。

 出国準備の段階の「オーストラリアのETA申請がアプリになっていた件」でも触れたようにETAの申請手続きにスマホのアプリが使われていましたが日本へ入国の際の手続きにもアプリが使われるようになっていました。

 例えば入国に際してコロナの「出国72時間前までの陰性証明」や「ワクチン接種の有無」を確認する検疫の手続き。昔なら紙に印刷した証明書を準備して窓口で提出して確認してもらう、という手続きを取ることになるところでしょう。でも、今回は「MySOS」というアプリで続きが可能になっていました。

 このアプリをスマホにインストールして滞在先や帰国の日程に関する情報を入力。さらにワクチンパスポート と陰性証明書の画像をアップロードすることになっています。

 ワクチンパスポートはかねて準備していた「新型コロナワクチン接種証明アプリ」を利用。二次元バーコードのでる画面に「この証明書を画像として保存」というボタンがあるのでこれを利用して画像ファイルを作成してアップロードしました。

 PCR検査による陰性証明書はSMSで検査会社から送られてきたリンクでダウンロードした証明書を利用。ここは少してこずりました。SMSでダウンロードしたファイルってどこに保存されるんだっけ。

 ネットで検索して無事に陰性証明書もアップロード。空港での待ち時間はほぼこの作業で潰れましたが、やっと以下の様な画面になりました。

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 ご覧の通り画面は真っ赤。ワクチン接種と空港検疫は審査中とあります。AIかなにかで自動でチェックされるなら一瞬で処理が終わりそうなもの。それなりに時間がかかっているということは裏側で誰かが人力でチェックしているのではないでしょうか。

 空港で待っている間に画面は緑に変わりました。えっ、緑?青になるって聞いていたんですけど。

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 少し調べると「自宅等待機や施設待機が必要な場合は緑色画面となります。」なんて説明が出てきます。これは困った。どうしよう。

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2022.09.02

帰国にむけてPCRテストを受けました(江頭教授)

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 先日来、2年半ぶりにオーストラリアに出張している、というお話を書いています。

 出張も終わりに近づくと今度は帰国のための準備が始まります。今回の出張で特別なのはやはりコロナ関連。日本に帰国して入国する際に「出国72時間前までの陰性証明」という条件がある点です。オーストラリアへの入国に際しては特に必要がありませんでしたから日本の方が条件が厳しいのですね。

 陰性証明といっても日本の検疫で認められるのはPCRのみ。さらにサンプルの採取方法にも指定があって唾液はNGだとか。指定に従った検査をしてくれて日本語の証明書を作ってくれるところを我々の前に出張していた人から教えてもらってまずは予約を。検査の結果はスマホのショートメッセージで送られてくるのだそうです。オーストラリアに着いてからスマホのSIMを現地のものと交換するので番号も代わります。ですから、予約はオーストラリアに入ってからになりました。

 検査所はパースの周辺。検査を受けてすぐに結果がでるのなら帰りに空港に行く前に立ち寄れば良いのですが、今回は結果がでることを保証するには48時間は見て欲しいとのこと。2日前に空港に行ってそのまま時間を潰すのはいくら何でももったいない、と言うことで72時間(3日)前すぐに検査を受けられる様にパースに移動し、再度調査地にとんぼ返りする、というやや面倒な行程を取ることになりました。

 パースで一泊して朝からナビを頼りに検査場に向かうと、なんか駐車場のようなところです。

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 中に入ると正に駐車場。ドライブスルー方式の検査場が2レーン準備されていました。混雑している、という印象はありませんでしたがそれなりに検査を受ける人がひっりなしで来ている印象です。

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2022.09.01

農場の風景いろいろ(江頭教授)

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 先日来、2年半ぶりにオーストラリアに出張している、というお話を書いています。前回は調査地周辺の農場の朝の風景について紹介しましたが、今回は朝に限らずいろいろな風景を。

 まず印象的なのは菜の花のが一面に咲いている風景でしょう。車から見るとどこまでも広がっている黄色い花が流れる様に過ぎてゆく風景はどこか非現実的にさえ感じます。

 こんな風景を見ると「写真の撮ろう!」と思いついて実際に写真を撮るのですが、いや、実際の風景の感動の十分の一も伝わらない。写真というのは難しいものです。

Fig1_20220901062301

風景の感動を伝えるのは難しそうなのでここでは記念写真を上げておきましょう。同行した人に撮ってもらったので写っているのは私です。

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