温暖化の責任者はだれか(江頭教授)
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前回の記事では公害問題と環境問題の違いを説明しました。公害問題は環境問題の一部ですが加害者が分かり易いことが特徴です。そのおかげで対策も比較的に容易である。公害問題では多くの場合加害者は企業でしたから、その対策を法的に義務づければきちんと法に従って対処をとってもらうことができます。
その一方で環境問題の中には「温暖化」に代表されるような解決の難しい問題もあります。温暖化の加害者はだれかと言えば「みんな」とか「誰もが」という非常に広範囲な対象です。端的に言って温暖化について議論できる程度の余裕のある生活水準にある人間なら多かれ少なかれ現在の産業社会の恩恵を被っているはずで、その産業社会こそが正に温暖化の原因である二酸化炭素を放出しているのですから。
しかも二酸化炭素の放出の最大の要因は化石燃料の利用であり化石燃料は未だに世界のエネルギー供給の大部分を担っている。エネルギーの供給が如何に社会にとって重要かはロシアとウクライナの戦争による世界の混乱をみれば強く実感されるところでしょう。
公害問題では原因企業に「止めてくれ」と言って「分かりました」で解決。その一方で温暖化問題はみんなで「止めよう!」と言っても「無理」「こちらにも事情があって…」「そもそも温暖化って本当なのか」などなど、甲論乙駁して収拾がつかないというのが現状なわけですね。
さて、この問題に関連して「先進国は温室効果ガスを排出した責任があるのだから途上国の環境災害に対して賠償責任があるのではないか、という議論があります。これにはいろいろな意見がありうると思いますが、私個人の意見としては余り説得力を感じない、というのが正直なところです。
先ほども「温暖化について議論できる程度の余裕のある生活水準にある人間なら多かれ少なかれ現在の産業社会の恩恵を被っている」と述べたのですが、例えば現在の先進国が産業革命を経験せず、化石燃料を利用しなかったとしたらどうなっていたのでしょうか。産業社会が成立しなければ二酸化炭素の放出は自然に大きな影響を与えるほどにはならないでしょう。でも、その替わりモータリゼーションも電気による照明も広がらず、そしてなによりハーバーボッシュ法による空中窒素固定も開発されなかったでしょう。
そのような空想上の世界ではそもそも温暖化問題が起こらなかった代わりに、その温暖化を心配する人も現れません。いや、その人が温暖化を心配していない、ということではありません。心配するその人自身がおそらく生まれていないのです。
なにしろ世界の人口が急速の増加しはじめたのは産業革命の成果が世界に広がったことが原因です。産業革命がなければ80億人にまで人口が増えることはなかったのですから、その空想上の世界にいるのは私達の内の十人に一人程度でしょう。そしておそらく、その一人もインターネット経由でブログ記事を読むのではなく日々の糧を得るために畑を懸命に耕しているのではないでしょうか。
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