経済成長に限界はあるのか(江頭教授)
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今回も慶應義塾大学大学院の小幡 績准教授の「ついに「日本が独り勝ちする時代」がやってきた」という東洋経済オンラインの記事に関連した内容ですが、少し視点を変えて小幡氏がその到来を予見している「膨張しない経済」について考えてみたいと思います。
まず最初に注意しておきたいのは、この「膨張しない」という表現はおそらく「バブルにならない」程度の意味で、完全に成長しない状態を示しているのではなさそうだ、という点です。言い換えれば「安定成長」となるでしょうか。
とは言え「安定成長」という言葉には特別な意味づけがあって、日本の高度経済成長(1970年代半ばまで)が終わったあと、年10%を超えるような急激な経済成長は終わったけれど、それでも毎年そこそこの経済成長は起こっている、そんな状態を示す言葉です。つまり、1970年代の石油ショック以後の時代が日本の「膨張しない経済」の時代だったのでしょうか。
実はこの「安定成長」の後に「バブル景気」がやってきます。
実際、バブル景気の引き金を引いたと言われる「プラザ合意」が1985年。ですから「安定成長」が「膨張しない経済」だとするなら10年程度しか続かなかったことになります。ちなみにこの時期のGDPの成長率は平均して4%程度。つづくバブル時代の成長率は6%程度ですから、成長率2%ポイントの差がいかに人々の心境に大きな影響を与えるか、その大きさ・深刻さが分かります。
バブル崩壊後から最近までGDP成長率は1%程度を中心に上下している状態です。バブル期にくらべて5%ポイントの減速ですから「安定成長」から「バブル景気」への変化を逆回転した場合の2倍以上の景況感の悪化があったはずです。これを経験した世代(私を含めて)には事情は人それぞれだとしても全体としては大きな負の影響があったに違いありません。そのため、私達の世代は現状を「ものすごく景気の悪い状態」となんとなく思い込んでいるのです。
小幡氏のいう「膨張しない経済」は「安定成長」よりも現在の状況(といってもここ20~30年つづいている状況です)に近いのでしょう。これは「ものすごく景気の悪い状態」などではなく、実は人と社会にとって望ましい状態なのではないか。そして世界の先進国も(遅ればせながら)その仲間入りをするのだ。
そう言われると私はなんとなく納得してしまうのですが、はてどうなのでしょうか。
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