カミオカンデのちょっといい話(江頭教授)
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卒業式、正確には学位記授与式に参加していたときのこと。挨拶の中で「カミオカンデ」のお話しがでてきてました。今回はこの「カミオカンデ」について昔に聞いたちょっといい話を紹介しましょう。
まず「カミオカンデ」とは何か。岐阜県の神岡鉱山の地下につくられたニュートリノ観測用の施設で、その観測の指揮をとった小柴昌俊教授がノーベル賞を受賞したことで一気に有名になりました。
でも私がこの話を聞いたのは小柴教授のノーベル賞受賞(2002年)よりずっと前のことで、おそらく超新星爆発によって発生したニュートリノの観測に成功して一部で話題となっていた1987年から何年かたったころの話だったと思います。当時私は東京大学の化学工学科の学生で、この話も研究室の先輩から聞いたのを覚えています。
「カミオカンデ」は言ってしまえば「水の塊」を検知器で取り囲んで、その中でニュートリノと水(というか水分子内の電子)の反応を検出する装置です。こういうと単純ですが、相手はほとんど物質に干渉しないニュートリノ。これを捉えるためには膨大な量の水が必要で、なおかつその水の中で余計な核反応が起こるとノイズになってしまいます。「カミオカンデ」の運用が開始された当初、装置内に貯めた水に含まれる微量の放射性物質の影響が。微量とはいっても微弱なニュートリノのシグナルを捉えるためには深刻なノイズになる。さてどうすればよいのだろう。
皆が頭を悩ませているとき、研究に参加している大学院生が寮の同室の学生とその問題について議論をしたそうです。この「寮の同室の学生」が化学工学科の大学院生で「そういうときは吸着剤を使うんだよ」とアドバイス。吸着塔の設計方法を説明したのだとか。海水中に微量に含まれるウランを回収するための吸着剤、というコンセプトはこの時期化学工学の分野で精力的に研究されいてたテーマですから、化学工学科の学生からすればごく自然な発想だったといえるでしょう。そしてこのアイデアがカミオカンデに実装されるとノイズレベルは次第にさがり、ついには超新星爆発のニュートリノの検出に成功した、というのです。
さて、このお話しの教訓はなんでしょう。当時の私は「化学工学って役に立つんだな」と単純に受け取っていたのですが、いま思い返してみると研究の内容を話し合う、ということの重要性、とくに異分野のひととの意見交換がブレイクスルーに繋がる、ということを示している様に見えます。大学院生同士が日常的に研究について議論する、というインフォーマルな習慣があったことが、やがてはノーベル賞に繋がる成果となったのですね。
最後に、この話にでてくる「寮の同室の学生」について。私が聞いた話では現在、福島大学の教授をされている佐藤理夫先生だと聞いているのですが、はて本当でしょうか?今度ご本人にあったときに確かめてみましょう。
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