スウェーデンより社会保障が充実し、アメリカよりイノベーションが盛んで、中国より市場規模の大きい国!?(江頭教授)
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この記事は慶應義塾大学大学院の小幡 績准教授の「ついに「日本が独り勝ちする時代」がやってきた」という東洋経済オンラインの記事への論評の続きです。
最初にお断りしたように私は経済学については門外漢なので、上記の小幡氏の記事の内容について判断できるほどの知識はありません。でも賛成できる点も多々あって、中でも「これはその通りだ」と思ったのは以下の部分。
日本の有識者や世間の議論の悪いところは、世界でいちばんのものを持ってきて「それに日本が劣る」と騒ぎたて、「日本はダメだ、悪い国だ」と自虐して、批判したことで満足してしまうことだ。社会保障はスウェーデンと比較し、イノベーションはアメリカと比較し、市場規模は中国と比較する。そりゃあ、さすがに勝ちようがない。
これぞ我が意を得たりでして、常々私も気になっている点なのです。
これも昔は違っていたと思います。世界で一番優れた製品、世界で一番優れた制度をよく観察し、それを参考に、というかそれをまねして自国に取り入れるというのが日本の国のやり方だった時代がありました。その時代なら世界でいちばんのものを持ってきて「それに日本が劣る」と騒ぎたてることにも意味がありました。そしてその後に続くのは「日本はダメだ、悪い国だ」ではなく「我々もそれに負けないようなものを創ろう」であったのです。
要は高度経済成長の時代、世界にはお手本となる国(多くの場合は米国)があり、そのまねをするのが「正解」だと言うことが分かりきっていた時代。そんな時代なら「横のものを縦にする」(横書きの英文を縦書きの日本文に訳すこと)だけで一端の専門家としてやって行けたのでしょう。
でもそれは戦争によって日本が貧しい国になったという特殊な環境の中で一時的にできた状況でしかありません。日本が先進国に返り咲き、さらに進んで世界的にも新しい問題に直面するような課題先進国となった現在では「出羽守」では通じないのです。
そういう意味で小幡 績氏の議論は確かに自分で考えていることが感じられ、その論点は新鮮です。氏の予測が当たるか外れるかはともかくとして、やはり私は小幡 績氏の文章を見つけるとついつい読んでしまうのです。
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