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「成長の限界」再読 その2 (江頭教授)

| 投稿者: tut_staff

 前回に引き続き、今回は「成長の限界」が何を述べているのか、その内容を再確認したいと思います。

 まず、タイトルが示している「成長に限界がある」ということ、それ自体はある意味自明のことです。たとえば、世界の人口がどんどん増えて、地球上のすべての生物が人間になってしまう、などという状況はあり得ないわけですから、成長が無限に続くこともあり得ない。もちろん、そんな状態になる心配をするのはずっと未来の話。我々が心配する必要はありません。

 本書の主張で重要なのは「成長に限界がある」という指摘ではなく、その限界に今後100年以内に到達する、という点なのです。(21世紀中には、とあるのでこの本の出版年から数えれば正確には128年以内にですが。)100年は確かに長い時間ですが自分自身はともかく、自分の子供や孫、自分に関係ある人間は100年後にもいるはずで、必ずしも自分と無関係とはいえない程度の未来なのです。

 では、成長の限界はどのような原因で訪れる、とされているのでしょうか。本書では資源の枯渇、汚染、食糧不足が指摘されています。しかし、どの要因を見ても、予測の不確実性は大きそうです。コンピュータシミュレーションのデータを少し見直したら100年ではなく、200年だった、いや300年かも、といったことにならないのでしょうか。原因が複数あるなら、そのなかでもっとも緊急性の高い原因に対して対策を打ち、他の原因に対してはその後で対応すれば良いのであって、成長そのものが問題だ、というのは筋違いではないかと感じられるかもしれません。

 実は本書では、これらの疑問に答える概念が丁寧に説明されています。

本書「成長の限界」の目次を見てみましょう。

監訳者はしがき
序論
Ⅰ幾何級数的成長の性質
Ⅱ幾何級数的成長の限界
Ⅲ世界システムにおける成長
Ⅳ技術と成長の限界
Ⅴ均衡状態の世界
ローマ・クラブの見解
参考文献
注解
ローマ・クラブについて

となっています。Ⅰ章とⅡ章をもちいて「幾何級数的」成長について重点的に説明していることがわかるでしょう。「幾何級数的」成長というのも耳慣れないことばですが、「倍々ゲームの」成長、とか「ねずみ算式の」成長、と言えばわかりやすいでしょうか。最初にあったもが成長するだけでなく、成長によって生じたものがまた成長に寄与する、というタイプの成長のことで、このタイプで成長するものは我々の直感をはるかに超える急激な増加を示します。

 本書の中ではペルシャの王様についての昔話が引用されていますが、日本にも秀吉と曽呂利新左衛門の話などに同様の例を見ることができます。「一日目は米一粒」「二日目は米二粒」「三日目は米四粒」と、初めは微々たる量なのですが「十日めは1000粒」「二十日目は100万粒」「三十日目は十億粒」となっていく、という話です。「複利での借金は怖い」という教訓でもあるのでしょう。

 本書で語られているのはこの幾何級数的な成長であって、人口が幾何級数的に成長し、工業生産の量が幾何級数的に成長する。それに対応して資源の消費量も、汚染の発生量も、食料の必要量も幾何級数的に増大することに対して「限界」がある、と言っているのです。
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 幾何学的な成長には時間が進むにつれて加速度的に成長量が増える、という特徴があります。ですから資源消費の限界、汚染の限界、食料生産の限界の予想に差異があっても成長の限界に達する時間にはたいして影響しないことになります。少し時間がたてば予想の差異を無意味にするぐらいの成長が起こってしまうのですから。

 では、このような限界を新たな技術の開発で解決しよう、という立場に対して著者たちは何を述べているでしょうか。第4章「技術と成長の限界」がまるまるこの問題への解答となっています。著者たちのシミュレーションでは世界の「人口の急激な減少」をもたらすのは資源の不足でした。そこで省資源技術が開発されたと仮定し、再度シミュレーションを行ったところ、こんどは汚染が原因で「人口の急激な減少」が起こってしまったのです。それならば、と省資源技術に加えて汚染対策の技術も進歩したと仮定したシミュレーションでは食料不足が「人口の急激な減少」を引き起こしたのでした。省資源技術、汚染対策技術、そして食料増産の技術も発展したとしたシミュレーションでは人類の繁栄する期間は多少延びたものの、すべての問題が一斉に発生し、やはり人口は急速に減少してしまったのです。

 幾何級数的な成長がつづけは、新たな技術が問題を解決するとすぐに次の問題が顕在化し、その間隔はどんどん短くなっていきます。やがて新たな技術開発が間に合わないスピードで次の問題が発生する様になる、幾何級数的な成長をつづければ必ずそうなる、というのが本書の考えなのです。

 このような考えに基づいて、成長をあきらめない限り「人類の危機」は避けられない、という本書の結論が導かれます。では、成長しない社会とはどのような社会なのでしょうか。

 それはまた次回のお話としたいと思います。

 

江頭 靖幸

 

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