一酸化炭素はなぜ危険か(江頭教授)
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皆さんは「締め切った部屋でストーブを焚いている場合は、ときどき換気しましょう」という注意を聞いたことがあるでしょうか。これを読んでいるあなたが高校生ならば聞いたことないかもしれません。エアコンが普及する以前、部屋の暖房にはストーブが使われていてガスや灯油が室内で燃焼されていたわけです。この注意はストーブが火が不完全燃焼した場合、締め切った部屋だと一酸化炭素が溜まって、一酸化炭素中毒を引き起こす、それを防ぐための注意喚起なのです。
でも、なぜ一酸化炭素で中毒が起こるのでしょうか。「一酸化炭素は赤血球のなかのヘモグロビンと酸素より強く結びついてしまって離れない。酸素を体内に運ぶヘモグロビンが一酸化炭素に占拠されると体内に酸素を運べなくなって息ができても窒息してしまう。」というのが、その理由です。
ここまでは良く聞く話ですが、もう一方踏み込んでみましょう。では、いったいどれだけの一酸化炭素を吸い込んだら危険なのでしょうか。
事務所衛生基準規則では事務所内の一酸化炭素濃度は「百万分の五十以下」つまり50ppm以下でなければならない、と定めているので50ppm程度なら吸い込んでも問題ない様です。ただ、これは一定量の一酸化炭素を吸い続ける場合の話です。一時的に一酸化炭素を大量に吸い込んでしまう、というケースではどうなるのでしょうか。これは人の体の中のヘモグロビンの量に関係がありそうです。
日本中毒情報センターで公開されている情報によれば体の中のヘモグロビンの10%~20%が一酸化炭素と結合すると症状が現れてくるそうですから、体内のヘモグロビンと結合する一酸化炭素量の10%以下の量に抑える必要がありそうです。
そう思って文献を調べると
堀居 昭 等「人体総ヘモグロビン量からみた全身持久性の研究」体育學研究 16(4), 215-222, 1972-01-30
という文献が見つかりました。この文献によると日本人の体の総ヘモグロビン量は男性で600~800g、女性で400~500gです。ヘモグロビン1gで一酸化炭素1.37mLと結合するので、一酸化炭素と結合したヘモグロビンを10%以下に抑えるにはCOの吸入量は55~110mLに抑えなければならないことが判ります。
どうでしょう、意外と多い?それとも少なかったですか?
ちなみに、上記の論文でヘモグロビン量を量る実験では被験者に「0.04%COと純O2との混合ガスを15分間呼吸させ」たそうです。肺活量4L、呼吸数毎分10回として4000mL×10×15×(0.04/100)=240mL。もちろん、呼吸した空気の中の全ての一酸化炭素がヘモグロビンと結合したとは限りませんが、この実験は結構危険なのではないか、という気もしますね。
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