人間は一人当たりどのくらいの二酸化炭素を排出しているか?その1(江頭教授)
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今回のお題は「人間は一人当たりどのくらいの二酸化炭素を排出しているか?」です。
これを聞いて「日本人なら年間10トンくらい。」と答えられた人はなかなかのものです。でも、今回の質問はちょっと意味が違います。
日本人が年間10トン程度の二酸化炭素を排出する、というのは日本という国が排出している二酸化炭素を日本の人口で割った値で、そのかなりの部分は化石燃料を燃やす際に放出される二酸化炭素です。
今回問題にしたいのは人間が生物として放出する二酸化炭素の量、つまり呼吸することによってどれだけの二酸化炭素を放出するか、という問題です。
この問題、どうやったら答えがでるでしょうか?人間が二酸化炭素をはき出すのは食べ物を体内で分解するから。それを元に二酸化炭素の量を推算してみましょう。
まず、人間はどのくらいものを食べるのでしょうか。
厚生労働省の「日本人の食事摂取基準」(2020年版) によれば普通の生活をしている18~29歳の男性は一日に2650 kcal、女性は2000 kcal が必要だということです。男女平均すれば2325 kcalですね。
このエネルギーが全てブドウ糖(グルコース)の燃焼から得られる、と仮定してみましょう。グルコースの燃焼熱は 2800 kJ/mol、つまり668 kcal/mol なので必要なグルコースの量は一日 3.48 mol ということになります。
燃焼に際して、一分子のグルコースからは6分子の二酸化炭素分子が発生しますから、一日2325 kcal をグルコースの燃焼で供給するとした場合 3.48 mol の6倍、つまり 20.9 mol の二酸化炭素が発生します。二酸化炭素の分子量は44g/mol ですから、これは919g。一年365日で335,000 g = 335 kg = 0.34 t になります。
「人間は一年あたり約0.34トンの二酸化炭素を放出する」という結果が得られました。
食事が全てグルコース、というのは大胆すぎる仮定かも知れません。炭水化物はだいたい合っているでしょうが、脂肪分はもっとエネルギー密度が高いと考えられますから、もう少し排出量は小さい値になるかも知れませんね。
さて、食べ物から推算する方法では一応の結果を得ましたが、この値は本当に信頼できるでしょうか?
次回は別の方法で二酸化炭素の排出量を推算してみましょう。
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