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書評 「未来の年表2 人口減少日本であなたに起きること 」(江頭教授)

| 投稿者: tut_staff

河合雅司

「未来の年表2 人口減少日本であなたに起きること」(講談社現代新書)

講談社(2018)

この本は以前推薦図書として紹介した「未来の年表 人口減少日本でこれから起きること」の続編です。「人口減少日本でこれから起きること」が2017年刊でしたから、それから1年後にサブタイトルを「人口減少日本であなたに起きること」として書かれたパート2という訳ですね。

 実はこの河合雅司の「未来の年表」は次々に続刊が出ていて、今回私がこのパート2を読もうと思ったのもパート5に当たる「未来の年表 業界大変化 瀬戸際の日本で起きること」の宣伝を兼ねた記事をあちこちで見る機会があったからです。いきなりパート5から読んでも良かったのですが、やっぱり順番通りに、と思い直してこちらの電子書籍版を入手しました。

 著者の河合氏は本書の冒頭で好評を博した前著について触れながら「自分の日常生活で何が起こるのかを教えて欲しい」というリクエストが多かったと述べ、本書の目標をこのリクエストに応えることだと述べています。つまり日本全体でのデータに基づいて、サブタイトルにもあるとおり「あなたに起きること」について考察しよう、というわけですね。

 目次から内容を拾ってみるとこんな感じです

「伴侶に先立たれると、自宅が凶器と化す」

「亡くなる人が増えると、スズメバチに襲われる」

「食卓から野菜が消え、健康を損なう」

「80代が待ちを闊歩し、窓口・売り場は大混乱する」

「若者が減ると、民主主義が崩壊する」

うーん。わざと奇をてらった書き方をして興味を引き立てようとする意図はわかるのですが…。

例えば「若者が減ると、民主主義が崩壊する」について。シルバー民主主義とかそんな話しかと思ったら選挙の投票場の運営が大変だ、というお話。いや、それ自体は大きな問題だと思いますが「民主主義が崩壊する」というのはいささか大袈裟なのではないでしょうか。

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 この本、人口減少を身近な視点で、という着眼点は良いのですが「身近」なこととして人が想像する内容が多岐にわたるのでピンとこない話しばかりに見えてしまうという問題があると思います。先の「民主主義の崩壊」だって投票所を運営している人が読んだら「我が意を得たり」となるかも知れません。でも、世の中そんな人ばかりでもないですよね。

 さて、本書の後半、第2部では「今からあなたにできること」と題して河合氏の考える人口減少社会への対策がまとめられています。こちらは

【個人ができること】

①働けるうちは働く

②一人で二つ以上の仕事をこなす

③家の中をコンパクト化する

などといった内容です。

 これこそ正に前著の読者が求めた「自分の日常生活で何が起こるのかを教えて欲しい」というリクエストへの答えです。

 とはいえ、こちらはこちらで前半と同じ問題を抱えています。人口減少という作用は同じでもそれぞれの個人やそれぞれの企業で起こる反作用はいろいろ。個別性・特別性が非常に大きいのですから、一般的な答えを準備することはできないのです。

 たとえば「働けるうちは働く」という「個人ができること」第一の命題ですが、具体的に説明されるのは「高齢者も働いてくれないと仕事が回らない」という社会の要請の説明に過ぎません。人口減少社会でも若くして財を成すひとは居るはずで、その中には一定の割合で早期リタイアして人生を楽しみたい、と思う人もいるでしょう。

 ということで、人口減少社会シリーズのパート2である本書はパート1程のインパクトを示すことはできなかった、といのが私の評価です。そもそも「自分の日常生活で何が起こるのかを教えて欲しい」というのがいささか無理難題なのではあるまいか。自分の日常生活なんて自分にしか分からない。人口減少社会が自分にどう影響するかはパート1を読んで自分で考えるべきですよね。

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