1930年代のエコカー(江頭教授)
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今回のお題は1930年代のエコカーの話です。ええ、2030年代でなく1930年代です!
ガソリンエンジンによる自動車が主流になる前、電気自動車が造られていたことは知られていますが、今回取り上げたいのは木炭で動く自動車、木炭自動車の話。
木炭自動車は戦時中の物資不足の時代、ガソリンが不足した日本で木炭をつかって走れるように改良された自動車のことです。木炭を不完全燃焼させて一酸化炭素と水素を含むガス、合成ガスを発生させる炉を組み込んだ自動車で、ガソリンの蒸気の代わりに合成ガスをエンジンに供給することで木炭を使って走ることができました。
木炭自動車の起源は1920年代に遡りますが、本格的に普及したのは1930年代の後半からだったそうです。当時、既存の自動車に取り付けるための反応用の釜とガス供給装置のキットが大小さまざまな企業から販売されていた様です。元々炭素自動車として設計された自動車ではなくても、木炭自動車に改造することができた、ガソリンエンジンをそのままの形で転用できたのです。
さて、なぜ木炭自動車がエコカーなのでしょうか。
普通の自動車も木炭自動車も、エンジンから二酸化炭素が出ています。これは燃料の中の炭素原子が酸化されたものですが、その炭素がどこから来たのか、によって温暖化の原因なるかどうかは異なります。
普通のガソリンは地面から掘り出した石油から作ったもので、自動車から出てくる二酸化炭素はもともと地面のにあったものが大気中に放出されたものです。
でも燃料中の炭素が大気中の二酸化炭素を植物が吸収したものなら、大気から見ると自動車から出てくる二酸化炭素は植物が固定した二酸化炭素が戻ってきたものです。二酸化炭素は自動車と大気をぐるぐる回っているだけなんですよね。
ですから木炭自動車は植物から得られた炭素を原料とし、大気中に二酸化炭素を増やさない“カーボンニュートラル“を実現させた先端的なシステムとみることもできるます。しかし、合成ガスの持つエネルギーの密度はガソリンや軽油など炭化水素のそれとは比べるべくもなく、その性能は満足のいくものではありませんでした。戦後、物資不足の解消ととともに木炭自動車は消えていったそうです。
PS:片渕須直監督のアニメーション映画「この世界の片隅に」は主に戦時中の呉を舞台とした作品で、その中には「バスが馬力不足で坂道を上れない」という描写(昭和19年2月の部分)がありました。このバスが木炭自動車で、戦時中の物資窮乏の折からガソリンの要らない自動車として木炭自動車の需要があった、という描写なのです。
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