地球上の水の蒸発速度の最大値は?(江頭教授)
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人間が利用する淡水のほとんどは河川や湖から取水したものですが、そのもとをたどれば雨や雪、つまり降水になります。そのもとは大気中の水蒸気、そしてその水蒸気は海からの蒸発と陸からの蒸発散(植物の体を通しての蒸発を蒸散と呼びます。蒸発と蒸散を合わせて蒸発散)で生じたものです。つまり私たちが利用している水は結局は水の蒸発散を経たものなのです。
蒸発、蒸散によって水は文字通り蒸留されて純粋な水になります。さらに高い位置に降った雨や雪は位置エネルギーを蓄えているので自然に人の住んでいる場所に行き渡ります。(本当は水の行き渡るところに人が住んでいるので、因果関係が逆ですけどね。)また水の位置エネルギーの一部は水力発電によって直接エネルギーとして人々に利用されているのです。
さて、ひとしきり蒸発、蒸散の大切さを述べたところ本日のお題です。このありがたい蒸発のおおもと、それはやはり太陽からの光のエネルギーです。では、その光のエネルギーでどの程度の蒸発が起こりうるのか、それを計算してみましょう。地球で起こる蒸発の最大値を求める、ということです。
もちろん、乾燥した暖かい空気が水面に吹き付ける、といった現象によって瞬間的・局地的に急速な蒸発が起こることもあると考えられますが、ここでは地球全体の平均としての蒸発速度の最大値、つまり太陽光線のエネルギーがすべて水の蒸発に使われた場合、として考えていましょう。
まず、地球軌道に太陽からやってくる光のエネルギーは1367 W/m2です。(これを太陽定数と呼ぶ、というのは先の記事でも紹介しました。)
同記事でも説明したのですが、太陽光を受けるのは地球の全表面積ですが、太陽光を受け止めているのは地球の断面積だ、という点に注目すると地表に届く平均の太陽光は、断面積と表面積の比率の分だけ太陽光は弱くなります。具体的には1/4になるのですね。
このエネルギーで水を蒸気に変えます。1kg(つまり1L)の水を蒸発させるのに必要なエネルギーは2257 kJ/kgなので、単位面積当たりに入っている光のエネルギー(太陽定数÷4)をこの熱量で割ってやれば良いわけです。
単位に注意しながらこれを計算すると答えは
4778mm/y
となりました。
さて、この数字をどう理解すればよいのでしょうか?
まず、八王子の降水量が約1600mm/yですから、それよりかなり大きいですね。とは言っても桁違いの数字ではありません。また、室内での水の蒸発速度は600mm/yで野外の水面からの蒸発もこれと同程度ですが、、この値のだいたい一割以上の大きさになっています。
降水量や蒸発速度とくらべて極端な違いがない、ということは太陽エネルギーの側から見ても地球の水を蒸発させるという働きは結構な割合を占めているということでしょう。太陽エネルギーは地球の水の循環にも有効に使われているのです。
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