光合成に使われる太陽エネルギーはどれくらい?(江頭教授)
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太陽から地球に到達する光のエネルギーは342W/m2という記事を以前書きました。そして、その約3割は反射されるので地球に吸収されるエネルギーの密度は約240W/m2という話をこちらに。
さて、今回のお題はこの太陽エネルギーのうち、光合成に使われるのはどのくらいか、という点に注目してみましょう。
今回も元データは教科書
坂田昌弘・編著「環境化学 (エキスパート応用化学テキストシリーズ)」(講談社サイエンティフィック 2015)
から。光合成に関する情報として
光合成による炭素固定速度 123 GtC/y
(24ページ、図2.4より)というデータがありました。ただし、これは地表のデータですから、海の植物(プランクトン)の光合成の速度は含まれていません。
地球の全表面のうち、陸地の面積は約3割の1.47×108 km2 、です。この数値から面積当たりの光合成速度(CO2の吸収速度)を計算すると 2.651×10-5g/(m2s) となりました。物質量( mol )で表すと 2.21×10-6mol/(m2s) です。
では、このデータから光合成に必要なエネルギーを計算してみましょう。
二酸化炭素の分子を吸収して光合成を起こすにはどのくらいのエネルギーが必要なのか、が問題になりますが、ここは以前と同様、シンプルに水と二酸化炭素からグルコースが作られるときのギプス自由エネルギーの変化を必要なエネルギーとしましょう。
6CO2+6H2O → C6H12O6 + 6O2
でΔG゜は 2880 kJ/mol 。CO2一分子あたりだとこの6分の一で 480 kJ/mol です。
先ほど求めた光合成によってCO2が消費される速度と掛け算すれば光合成に利用されている光のエネルギーを求めることができます。その結果は 1.06 W/m2 となりました。
まとめましょう。太陽から地球に到達する光のエネルギー342W/m2 に対して陸地で起こる光合成の速度はその約三百分の一程度でした。反射や蒸発に比べて光合成に利用される光の量は非常に小さい、ということが分かります。これは陸地での値ですが、海での光合成速度がこの値より極端に大きい、ということはありそうもないですから、光合成は太陽光のエネルギーのほんの一部しか利用していない、ということが言えると思います。
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