海は広くて大きいが...(江頭教授)
| 固定リンク 投稿者: tut_staff
海の水にはいろいろな成分が含まれていますが、その中で圧倒的に多いのはもちろんCl-(550mmol/L)とNa+(470mmol/L)です。海水から水を蒸発させて食塩をつくる製塩業では、一緒に「にがり」がとれますが、これは海水に含まれるMg2+(53mmol/L)が主成分で、その濃度はNa+の10%程度です。また、イオウを含む硫酸イオンSO42-(28mmol/L)もCl-の5%程度が含まれています。
また、Na+と性質の近いK+(10mmol/L)や、海中のプランクトンなどの骨格を形成するCa2+(10mmol/L)もNa+の2%程度含まれています。大気中のCO2が海水に溶けた場合、ほとんどはHCO3-イオン(2mmol/L)となるのですが、その割合はぐっと少なくてCl-の0.5%程度です。
これら海水の主な成分は陸地の近くを除いて地球のすべての海でほぼ一定です。当たり前の様に思っていますが、考えてみればすごい話です。地球の規模の水が完全に混ざるにはどれほどの長い時間が必要だったのでしょうか。
コップの中の水に食塩を入れたとします。かき混ぜなければ塩はコップの底にたまって簡単には全体に広がりません。コップの大きさがだいたい10cm 程度(これは1cmよりは確実に大きいが、1mにはならない、というぐらいの意味です)だとします。水の中の食塩(正確にはCl-とNa+の)拡散係数はだいたい1×10-9m2/s 程度なのでコップの中の塩が自然に均一になるのにかかる時間を見積もると
(10-1m)2/(1×10-9m2/s) = 1×107s
つまり、約4ヶ月ほどかかることになります。
海のサイズは「地球の周の長さは4万キロメートル」なので1万km、つまり107m程度とみておけば良いでしょう。この場合、均一になるための時間は
(107m)2/(1×10-9m2/s) = 1×1023s
これは3×1015年、つまり3千兆年で地球の、いえ、宇宙の寿命より長くなってしまいます。
もちろん、この結果はおかしい。実はこの計算は「かき混ぜなければ」という条件で均一化にかかる時間ですから、「海はかき混ぜられている」ということが分かります。
実際、海の水には海洋大循環と呼ばれる地球規模の大きな流れがあることが知られています。つまり「海は広くて大きいが」「良くかき混ぜられている」のです。
「解説」カテゴリの記事
- 災害発生時の通信手段について(片桐教授)(2019.03.15)
- 湿度3%の世界(江頭教授)(2019.03.08)
- 歯ブラシ以前の歯磨き(江頭教授)(2019.03.01)
- 環境科学の憂鬱(江頭教授)(2019.02.26)
- 購買力平価のはなし(江頭教授)(2019.02.19)