湿度100%は「水中」じゃない(江頭教授)
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私が子供の頃の話。テレビかラジオの天気予報なのでしょう。「明日の湿度は100%」という言葉が耳に入りました。「湿度」が空気中の水の量を表していることは分かるくらいの年齢だったのか、空気中に水が100%になるということは「水浸し」というか完全に「水中」にいることになるのじゃないか、なんて馬鹿な予報なんだ、と考えた記憶があります。
まあ、馬鹿はおまえだ、ということで今回のお題は「湿度100%」がどんな状態か、という話をしましょう。
天気予報などで使われている「湿度」という言葉、正確には「相対湿度」のことです。空気中の水分が飽和蒸気圧分の水分に比べてどのくらいの量、含まれているか。それをパーセントで表しています。ですから「湿度100%」という状態は空気中に飽和蒸気圧の水分が含まれている状態だ、ということです。
なるほど、では「湿度100%」の空気中には実際にはどれくらいの(例えば何mg/Lの)水が含まれているのでしょうか?
実はこの問い、この条件だけでは答えることができません。飽和蒸気圧は温度によって変わりますから温度を指定しないと空気中の水の量を求めることができません。
水の飽和蒸気圧は以下に示すAntoineの式で求めることができます。
例えば 25℃ (298K)の飽和蒸気圧を計算すると 3.1×103 Pa となります。25℃で湿度100%の空気中にはこの分圧の水蒸気が存在していることから、水蒸気を理想気体と考えると空気中の水の量は23mg/Lと求められます。
同様に30℃での空気中の水分を計算すると30mg/Lとなります。温度が上がると飽和蒸気圧が大きくなるので「湿度100%」の空気に含まれる水の量も大きくなるのです。
これは25℃で湿度100%だった空気を30℃まで暖めると(空気から水の出入りがないのに)湿度が変化する、具体的には76%程度まで小さくなってしまう、ということを意味しています。
「湿度」の値は温度によって変化する。ということは「湿度100%」には実際的な意味が無い、ということなのでしょうか?
いえいえ、「湿度100%」は「蒸発が全く起こらない湿度」という意味があります。考えてみると私たちが湿度を気にする理由は「蒸発が早くて洗濯物が乾きやすいか」とか「汗が蒸発して涼しく感じるか」といった水の蒸発に関わるものが中心です。そう考えると天気予報などで湿度を相対湿度で表しているのは私たちの感覚に合っていると言えるのではないでしょうか。
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