光合成に使われる太陽エネルギーはどれくらい? 純一次生産から(江頭教授)
| 固定リンク 投稿者: tut_staff
太陽から地球に到達する光のエネルギーは342W/m2。その約3割は反射され、 約2割は水の蒸発に使われることになります。
そして、こちらの記事では光合成に使われる割合(ただし陸上での値です)を計算し、約三百分の一程度という結果を得ました。
今回は別の角度から、地球全体で光合成によって得られる、というか光合成によって植物が蓄えるエネルギーを計算してみましょう。植物が光合成をしても、植物自身が消費してしまう分のエネルギーは私たちは利用することはできません。(私たち自身が光合成ができれば話は別ですが…。)
植物の光合成から植物自身の呼吸を引いた部分、要するに植物が成長してバイオマスが増える部分を純一次生産と呼びます。(なお、呼吸を引く前の値は総一次生産と呼びます。)この純一次生産についてのデータが、
日本生態学会 編「生態学入門」(東京化学同人 2004)
という教科書の「地球の純一次生産速度と植物の現存量」(表9.1)という表にまとめられているのを見つけました。
生態系によっていろいろな値をとるのですが、陸地の平均は 773 g/(m2・y)、 海洋の平均は 152 g/(m2・y)、そして全地球平均で 333 g/(m2・y) となっています。
前回と同様、この値が太陽エネルギーのどの程度に相当するのか、計算してみましょう。
一次生産の単位は、g/(m2・y) ですが、この「g」乾燥させたバイオマスの重量を基準にしています。その半分が炭素だ、と仮定しましょう。1g のバイオマスは 0.5g の炭素、つまり 0.0417mol の炭素を含んでいます。この炭素は光合成によってCO2が固定されたものです。前回同様、水と二酸化炭素からグルコースが作られるとして二酸化炭素 1mol 当たりの光合成に要するエネルギーを求めると 480 kJ/mol となります。よってバイオマスの 1g は 20 kJ のエネルギーの相当します。
さて面積当たり、時間当たりのエネルギー量に換算しましょう。全地球平均で 333 g/(m2・y) は 0.21 W/m2 となります。
地球にやってくる太陽エネルギーの密度 342W/m2 に比べると約1千6百分の1になりました。地球全体の平均では太陽エネルギーのほんの一部しかバイオマスの生産には使われていない、という事ですね。
皆さんはこの結果をどう感じるでしょうか? 陸地のすべてが森林というわけでもありませんし、海の植物はプランクトン程度ですから、それほど不思議な結果ではないかも知れませんね。
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