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融ける結晶?溶ける結晶!(江頭教授)

| 投稿者: tut_staff

 まずは下の写真をクリックしてみてください。


 写真に写っているのビーカーの中の物質は硝酸コバルト、正確には硝酸コバルト六水和物(Co(NO3)2・6H2O)の結晶です。ビーカーは水浴の中に入っていて60℃~65℃の間に加熱されています。クリックして動画を見ていただくとわかりますが、硝酸コバルトの結晶はこの温度で溶けてしまいます。


 通常、金属塩がとけるのはかなり高い温度です。たとえば食塩、NaClの融点は800℃程度。60℃程度の低温で金属塩がとける、というのはかなり異常なことです。


 なぜ、こんなことが起こるのでしょうか。


Photo

 さて、ここまでの文章、「とける」「融ける」「溶ける」という表記がごちゃ混ぜになっていますね。実は、「融ける」は温度が上がって液相に相転移するという意味での融解のこと、「溶ける」は「水に溶ける」の溶解の溶ける、「とける」は両者を区別しない場合を意味する、という考えで書き分けているのです。(これは一般的ではありませんが。)


 では硝酸コバルト六水和物がとけるのは何故でしょうか。


 この結晶の中には水の分子が含まれています。重量基準では183gの硝酸コバルトに対して108gの水が含まれている計算になります。一方で、温度が上がると水への溶解度が高くなる物質は多い、というか温度が高いほどたくさんの物質が水に溶けるのが普通です。水に良く溶ける物質なら60℃程度の温度で108gの水に183gとける物質が有ってもおかしくはありません、というか硝酸コバルトがそのような物質だ、ということなのです。


 つまり、硝酸コバルト六水和物の結晶が溶けているのは、硝酸コバルトが融解しているのではなく硝酸コバルトが自分の持っている結晶水に溶解しているのです。この結晶は「融ける結晶」ではなく「溶ける結晶」だ、ということですね。



江頭 靖幸


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