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NHK 藤子・F・不二雄SF短編ドラマ「定年退食」(ドラマ編)(江頭教授)

| 投稿者: tut_staff

  藤子・F・不二雄氏のSF短編漫画を原作としたドラマがNHKで放送されている。その一本「定年退食」について私見を述べたい、というのが前回のお話。でも肝心のドラマは4月16日に放送済。うーん、これは何とかならないかと思いましたが再放送の予定もないとか。でも調べてみるとNHKオンデマンドで見ることができるそうです。

 で、そのサイトに載っていた出演者一覧を見てびっくり。このドラマの主人公を演じているのは加藤茶氏なんですね。加藤茶氏はもとドリフターズの中心的なメンバーで昔は子供達に(というか僕たちに)大人気でした。今は80歳くらいのお年なのでしょうか。そして主人公の友人「吹山」(ほら吹きで山師、という意味かな?)を演じているのは井上順氏。もとザ・スパイダーズのメンバーですが、子供達に人気…ではなかったですね。(もうちょっと年上の人たちに人気でした。)井上順氏も今は70代後半のはず。

 このドラマ、お年寄りが主演なのはたまたまではありません。老いがこのドラマのテーマに大きく関わっているのですから。

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(後半には「定年退食」のネタバレがあります。)

さて、前回ChatGPTが当てにならないことが分かったので、今回はNHKオンデマンドにある概要を引用しましょう。

謎めいた汚染が広がった近未来。高齢化、食糧不足が進み、国家にも定年制度が導入されている。息子夫婦と暮らす男(加藤茶)は老化防止に役立つと聞いた塩コーヒーを飲むのが日課だが、食事はほとんどとらず常に空腹を抱えていた。いつもの公園で、お調子者の友人・吹山(井上順)が、声をかけてきた。役所に行って、二次定年特別延長の申込書にある仕掛けをすれば、延長の恩恵にあずかれると、怪しげな提案を男に持ちかける。

という内容。さらっと書いてありますがこの「国家にも定年制度が導入」というのが結構残酷な制度です。この世界では(おそらく)逼迫した食糧事情のため食糧は配給制となっています。今の我々が使う意味での定年を一次定年とし、さらに二次定年を定めて、二次定年に達した人たちには食糧の配給を打ち切るというのがこの制度なのです。つまり二次定年を迎えた老人に対して事実上餓死を強要する、いえ、強要せざるを得ない追い詰められた未来が描かれているのです。

 とはいえこの事実が視聴者に向けて明らかにされるのはドラマがかなり進んだ後のこと。息子夫婦と暮らす老人のごく一般的な家庭での様子からスタートし、何やら定年についてひどく気にしている様子が描写され、次第にこの社会が置かれた厳しい状況とそれに対する非情ともいえる対応である「定年制度」の実体が明らかになる、という構成になっています。

 このような構成のため仕方のないことかも知れませんが、このドラマで描かれる日常には切迫した食糧危機を感じさせるような、餓えに苦しむ人々の描写や、二次定年を迎えた老人の運命の具体的な様子の描写はありません。主人公も二次定年に備えて食事を減らす「節食(せっしょく)」を行っていてふらついて倒れるといった描写があるのですが、その様子はどこか穏やかで悲惨さを感じさせないものです。

 ドラマとして15分の短編でありショッキングなワンアイデアで成り立つストーリーなのでそれはまあ仕方の無いことです。でもここで描かれたいる問題は私がいつも気にしていることでもあり、何か気になっていろいろ言ってしまう作品なのです。

 

江頭 靖幸

 

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