NHKクローズアップ現代「FIRE」特集を見た(江頭教授)
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「クローズアップ現代」は話題のトピックスについて掘り下げて紹介するNHKの30分番組で、「心に刺さるジャーナリズム」をキャッチフレーズにしています。今回は2023年4月12日放送の「私たちはなぜ働くのか 投資&倹約で生きるFIRE生活」について少し私見を述べさせてください。というか、ツッコミを入れさせてください、ですかね。
まず「FIRE」とは。Financial Independence, Retire Early(金融独立、早期退職)の略で、最近人気が高まっているライフスタイルの一つです。FIREの目的は、節約し、投資を行い、早期に働くことから解放されることで、自分の時間や人生のコントロールを取り戻すことです。
番組の中では説明されませんが、「fire」という単語には「解雇する」という意味があります。(「You're fired!」はトランプ前米国大統領が大統領になる前に出演していた番組の決めセリフだったりします。「おまえは馘だ!」ですね。)ですからこの「FIRE」という略称はある種の皮肉なのです。(「馘だって!だったら独立独歩、早々に楽隠居生活だぜ。」みたいな。)
さて、今回の番組では主に3人の人物が「FIRE」の実践者として紹介されます。
一人目は働き盛りというか中年というか。なかなか恵まれた「FIRE」生活を送っている方。20件近い不動産を所有してその賃料で暮らしていて、そのための借金も順調に返済しているとか。うん、あの、この人「Retire」して無くないですか?
お金を借りて不動産を買って、それを貸し出して賃料を稼ぐ人、というのは現役の「不動産投資家」です。私にはこの人は「FIRE」した人ではなくて「脱サラして不動産投資家になった人」にしか見えないのですが…。
次の人は徹底した倹約生活を送っている若い人。なるほど使うお金が少なければ「FIRE」生活の実現可能性も高まるというもの。吉田兼好やソローとは言いませんが、古より「清貧」を尊ぶという考えはありました。でもこの人、実はまだ「FIRE」できてなくて、目指している段階だとか。なんか節約が趣味になっている様にみえるのですが、はて本当にEarlyにRetireできるんだろうか。
そして最後の3人目。「FIRE」生活を送ることで自分を見つめ直し、逆に仕事に意義を見いだしたとかで、意欲を取り戻してまた働き始めるのだとか。結局この人もRetireを断念していてるし、番組で紹介された人、だれもRetireしていないのでは。
この番組は「働き方を問い直す」という方向に話が進みます。サラリーマンに対して「アメリカからやってきた全く新しいトレンドFIRE」という位置づけの様。いやいや、起業して自営業でやっていくという話しなら昔から在ったのでは。要するに「働くこと」として企業に雇われてサラリーマンになること以外を全く想定していない、というかこの番組を作った人たちには自営業の人たちの姿が見えていないのでしょうか。
PS: 私が中学生ぐらいの頃ですが「努力しないで出世する方法」というコメディ映画をTVで放送していたのを見たことがあります。劇中で「努力しないで出世する方法」という本を手に入れた主人公があの手この手で上役に取り入って大企業のトップに上り詰めようとする、という内容でしたが、映画が終わった後に解説者のひと(確か淀川長治氏)が「努力しないで出世する方法と言いながら、主人公はめちゃめちゃ努力していて、面白いですよね(さよなら、さよなら、さよなら。)」と評していました。今回の「FIRE」特集をみて突然、これを思い出しました。
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